2018年5月7日月曜日

手賀沼の自転車道と遊歩道

手賀沼の西端の自転車道・遊歩道

手賀沼南岸の遊歩道は荒川下流の河川敷道路と同じ幅員で歩行者・ランナーと自転車の通行区分が実現できていると知ったので見てきました(今回は沼の西端からヒドリ橋までの区間のみ)。



千葉県公式のサイクリングロードマップに横断面の図が載っています。

千葉県 (no date) 千葉県の各種道路図, 千葉県. Available at: http://www.pref.chiba.lg.jp/doukan/douroiji/shiryou/index.html (Accessed: 10 March 2018).

(掲載マップは「手賀沼自転車道(1)(PDF:4,259KB)」)

図では標準幅員が自転車道4m、遊歩道3mとなっていますが、沼の西端からビジターセンターまでは逆に遊歩道の方が広いです。現地での実測はしていませんが、航空写真で測ると自転車道が3m、遊歩道が5mくらいですね。


自転車道と遊歩道の分岐

途中何箇所か自転車道と遊歩道が分かれて別ルートをとる箇所があります。自転車道を走るランナー、遊歩道を走る自転車も何人か見かけましたが、概ね棲み分けは成立していました。

左手に立っている標識は「(325の3)自転車及び歩行者専用」なので、法的には道路全面が「自転車歩行者専用道路」ということになるようです。「自転車道」は千葉県による便宜上の表現ですね。









北千葉導水ビジターセンターを過ぎると空間配分が変化

航空写真で見ると自転車道と遊歩道が3mずつくらいです。


自転車道の白線と遊歩道の緑線の間にバッファ

手賀沼南岸のレクリエーション道路の特徴は、自転車と歩行者の通行空間の間に0.5mほどのバッファが設けられている点です。線を挟む自転車と歩行者が互いに安全マージンを取るので、これは中々良い工夫だと感じました。自転車道が混雑していると、他の自転車の追い越しなどで遊歩道にはみ出す自転車も度々見られるので。



ヒドリ橋から見た手賀沼

手賀沼のサイクリングロードはまだだいぶ先まで続きますが、この日は柏の野馬土手と利根運河も見に行く予定だったので、ここで折り返し。



手賀沼に何を見にきたのか


手賀沼のサイクリングロードを見に来た直接の切っ掛けは、今年3月に荒川下流河川事務所が扇大橋付近で、自転車の速度抑制を狙って土系舗装を試験導入したことです。

これは積年の課題である歩行者(ランナーや野球場利用者など)と自転車の錯綜問題に対する一つの回答ではあるんですが、荒川のような
  • 道幅が広い
  • 見通しが良い
  • 信号がない
  • 一般車の通行がない
というスポーツ自転車にとって好条件の走行環境でその速度を抑え込もうとするのは「シーシュポスの岩」のようなもので、河川敷の利用者間の対立を解消するという目的に対して、手段が根本的に間違っています(あるいは、目的が「自転車の速度を下げさせる」にすり替わっているのかも)。

速度を抑え込むのではなく、速度の異なるものを分離する方が遥かに効率的な解決策で、荒川下流の河川敷道路は(多摩川と違って)それに必要な道幅も既に有しています(7.5m幅)。

ではなぜそれをしないのか、できないのか、と疑問に思っていたところ、手賀沼の南岸のレクリエーション道路が、荒川のそれとほぼ同じ幅員で歩行者と自転車の通行区分を実現できていると知りました。

今回手賀沼に来たのは、その通行区分が実際に有効に機能しているかどうかを自分の目で確かめたかったからで、前述の通り、なかなかうまく行っているとの印象を受けました。

ただ、手賀沼は荒川と違って、
  • 水辺側に野球場などが無く、道路を横切る人がほとんどいない
  • 緊急車両やダンプカーの通行がない
という点には留意する必要があるでしょう。


荒川のこれまでの経緯について参考になる記事

Muga (2014) ‘荒川下流河川敷利用ルールの改正について’, 3 February. Available at: http://aminocyclo.blogspot.com/2014/02/blog-post.html (Accessed: 7 May 2018).



荒川ではなぜ通行区分を導入しないのか


実は荒川下流では過去に自転車レーンを試験導入していたこともありますが、本格導入には至らず、次から次へと新たな対策を繰り返してきました。

しかしそのどれもが、ヒトの行動原理についての深い理解を欠いた思い付きレベルのもので、いわゆる「デザインの敗北」でした。

自転車レーン 2012年 対面通行には危険すぎる2.0m幅という狭さで、自転車同士の正面衝突事故が起こり、試行期間終了後に区分線などを墨塗り。その後、堤防強化工事に伴って舗装が更新され、実験の痕跡は完全に消失した。
段差舗装、
イメージハンプ、
徐行看板
2014年 速度抑制に効果的なバンプは緊急車両の通行の支障になるため採用できず(大型車の通過時の衝撃で路面の破壊が生じる切っ掛けにもなるだろう)、乗り心地が悪いだけで速度抑制効果の薄い段差舗装が採用された。個人的には、あの不快な凸凹路面は自転車乗りの注意を路面に引き付けてしまい、設置意図に反して歩行者への注意が疎かになるのではと思っている。
土系舗装 2018年 雨上がりに自転車の轍ができてハンドルを取られやすくなる問題が発生。電話インタビューによれば河川事務所は轍ができれば路面を均す運用方針とのことだったが、それと引き換えに速度抑制効果はほぼゼロになるだろう。

もっとも、こうした対策は事務所の独断ではなく、沿岸自治体との協議会(「荒川下流河川敷利用ルール検討部会」だったかな?)で決定しているそうです。

今年(2018年)3月に荒川下流河川事務所に扇大橋の土系舗装の件で電話インタビューしたのですが、それによれば、

  • 自転車レーンの再試行も会議で提案されたものの、「一度試したことをまたすぐやるのは如何なものか」という理由で却下された。
  • 四つ木橋付近の未舗装区間で自転車の速度が落ちていることをヒントに、それを再現して敢えて未舗装にすれば良いのではないかという意見が出て、扇大橋付近で土系舗装の試験導入が決定した。

とのことでした(いずれも誰の発言かは電話インタビューでは明かされなかった)。

また、この電話インタビューで河川事務所が手賀沼の整備事例のことを認知していなかったことも分かりました。先行事例(下記参照)の調査という基本中の基本すらできていないことが、失敗施策が生まれる背景にあるということですね。

電話インタビューでは私から「手賀沼の事例を手本にすれば良いのではないか」という提案もしましたが、河川事務所側からは道路管理の法的区分の違いを理由に難色を示されました。もっとも、本当に区分が異なるのか、異なったとしてそれが本当に制約になるのかは私には分かりませんが。


整備が進む手賀沼サイクリングロード (no date). Available at: http://park20.wakwak.com/~toukatsu/teganumaroad.htm (Accessed: 7 May 2018).

(手賀沼のサイクリングロードが2011年完成予定と書かれている。)