2018年4月24日火曜日

豊島区・みたけ通りの自転車インフラ多重整備と改善案

2018年4月26日 記事末尾に自転車レーンの整備案を追加

豊島区道11-890号(2018年4月撮影。場所は35.7374237,139.7054785

ロングライドの途中で偶然通りかかって見つけた真新しい道路。

国交省のガイドライン準拠の自転車ナビラインと、東京都の標準的な自転車歩行者道が多重に整備された事例です。一向に洗練されない自転車インフラ設計ノウハウに加え、昨今の日本の自転車政策の迷走ぶりを如実に表わした例と言えるでしょう。

いずれも中途半端な二つの自転車通行空間。これを一つにまとめれば、同じ道路用地の中でどれほど質の高い自転車インフラができたことか。



基本情報


整備の経緯は豊島区の公式ウェブにまとめられています。

都市計画道路補助第173号線の整備 (2018). Available at: https://www.city.toshima.lg.jp/332/machizukuri/doro/dorokoji/000855.html (Accessed: 22 April 2018).

2018年3月24日に開通。計画の始動は1997年で、約20年がかりの事業でした。

整備延長は530m(うち25mが板橋区)、幅員は車道9m、歩道両側各4.5mの計18m。最初のガス・下水道工事と電線共同溝の詳細設計が2011年とあるので、7年前にはもう大枠が固まり、それ以降は設計の自由度が減じたと考えられます。

交通量に比べて幅が広すぎる印象を受けますが、火災の延焼防止や避難路としての役割もあるのでこの幅になったのでしょう。



現地観察


車道の幅員は一定で、山手通りとの交差点の手前で右折車線が付加されています。

区間途中の横断歩道に信号機が設置されていますが、少なくとも現状の交通量ではその必要性が感じられません。横断歩道の安全性を高める設計手法、例えば
などを取り入れないから、無駄に信号機を設置する文化がズルズルと長続きしてしまうのでは? 本来必要のない信号機は、道を行き交う人々の時間を日々奪い取るものだと認識すべきです。



南側の歩道(同じく山手通り方面)

自転車通行空間(灰色のブロック舗装)は、乱横断防止柵の支柱を除いた部分で2.0m確保されているようですが、その2.0mの範囲内にも当たり前のように工作物が設置されています。

車道の只中に街路樹や電柱を立てないように、自転車通行空間も建築限界内には工作物を設置すべきではありません。

これは、国交省・警察庁の「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」策定(2012年)を待つまでもなく、1974年発行の『自転車道等の設計基準解説』で示されていた指針ですから、事業が長期に及んだことは、不適切な設計で完成させてしまったことの言い訳にならないですね。漫然と過去の欠陥設計手法をなぞったようにしか見えません。



心理的な有効幅員

日本では、工作物にぶつかる恐怖心を考慮した心理的な建築限界についての意識が希薄すぎます。車止めや信号柱は、それが物理的に占有している以上の領域を自転車通行空間から削り取ります。

上図は、CROW (2007) Design manual for bicycle traffic, p.48所載のFigure 7に記載された値を用い、自転車利用者の体感的な幅員を推測したものです。

仮に、自転車とその乗員が占める幅を60cm(普通自転車規格)、走行中の蛇行幅を左右12.5cmずつ(CROW, 2007, p.48)とするなら、この地点では自転車通行空間の幅員の心理的な余裕は2.5cmしかありません。



車道を横断する歩行者、車道を通行する自転車、路上駐車

振り返って豊島区立 池袋図書館方面です。

歩行者が気楽に車道を横断していることからも分かるように、現状、この路線は車の交通が少ない穏やかな環境です。



北側の歩道

車道を通行する自転車も比較的多く見かけましたが、路上駐車に進路を阻まれた場合、その手前で歩道に上がる人と、車道の中央側から追い越す人が見られました。このような閑静な路線であってもなお、車道上の矢羽根はあらゆる人が安心・快適に自転車で走れるようにするには力不足であると考えられます。

車道の端という同一空間に駐停車機能と通行機能を重複割り当てしている以上、当然予想される問題ですね。



路上駐車しているミニバンを追い越す自転車



共同溝の地上機器(トランス)が自転車通行空間内に設置されています。



心理的な有効幅員の推測

先ほど引用した CROW (2007) は、工作物の種類ごとに異なる心理的側方余裕の一覧に地上機器の箱を例示していません。そこで、車止めや街路灯の柱よりは圧迫感が強いだろうと考え、若干多めの0.35mを必要余裕と仮定しました。

ここでも、幅員2.0mという道路構造令の下限規定(ただしこれは自転車道に対するもの)が蔑ろにされ、自転車通行空間が、雑多な工作物を収容するのに便利な空間として設計者に都合よく使われてしまっています。

その一方で車道は路上駐車を想定したかのような広幅員(2 * 4.5m)での整備です。車の利便性が優先された結果、自転車通行空間が皺寄せを受けるという定番の構図ですね。



広幅員車道は事実上の巨大無料駐車場


取り締まりが行き届かず、自由に路上駐車できてしまう車道端の余分な空間。これを行政による無料駐車場の提供と見做した場合、その収容台数はどれくらいの規模でしょうか? 

千川通りの上井草駅付近の空撮画像に写っているパーキングメーターの枠線を参考にすると、長さ12.0mで2台分です(二重駐車は発生しないとの仮定)。


そして路上駐車の実態を見ると、
  • 交差点・横断歩道の前後5mずつの駐停車禁止範囲は無視
  • 交差点手前の車線幅が狭い区間でも駐車する
  • 交差点内であっても丁字路の横画上側であれば駐車する
  • 他人の家の車庫前などを塞ぐ位置の駐車は少ない
といった傾向が感じられます。

そこで、道路の北側と南側を別々に考え、それぞれの延長から
  • 細街路との交差点(みたけ通りの整備区間に接続する道路は全て細街路)
  • 車両乗り入れ部
を除いた長さ(m)を求め、それを6で割ることで収容台数を推測することにします。

地図を眺めた印象では細街路の幅員はどれも5m程度なので、駐車が発生しない範囲は交差点1箇所あたり5mと計算します。交差点の数は(始終端それぞれの交差点を除いて)北側11箇所、南側7箇所です。

車両乗り入れ部の多寡は場所によってかなり違うので、全区間歩いて見ないと正確なところは分かりませんが、とりあえず整備延長全体の1/4と仮定します。

{530 * 2 * (3/4) - 5 * (11 + 7)} / 6 = 117.5

大まかな推測ですが、100台強となりました。不必要な広幅員での整備によって、豊島区と板橋区はこれだけの無料駐車スペースをドライバーに提供していることになります。もちろん、沿道に住宅の多いみたけ通りが全区間みっちり路上駐車で埋まることはありませんが、それは、有効に使えていない無駄空間がそれだけ多いということでもあります。



同じ道路用地で何ができたか


Streetmixで現状の横断面を簡単に再現しました。

車道に割り当てられた空間が法外に大きい点が印象的です。歩道部分も合計すれば片側4.5mで車道と同じではありますが、現実の道路は……

よりリアルになるよう手を加えるとこんな感じ。

ごちゃごちゃと設置された工作物で非常に狭いので、自転車利用者にとっては車道の方が広々と快適に感じられるでしょう。しかし上述の通り、路上駐車に進路を阻まれる問題があり、余分に取られた車道空間が活きていません。その余分を自転車通行空間に集約すれば、と考えて作ったのが以下の構成案です。



自転車道を設置した場合


単路の標準断面案

現実の道路で自転車通行空間を侵食している物を全て排除できるように、車道との間に緩衝帯を設けてあります(花壇で表現)。このスペースに共同溝の地上機器や小規模な駐輪場、ゴミ集積所などを収めることができます。

自転車には2.0m幅で一方通行の自転車道を用意しました。これは、自転車交通量が少ない(ラッシュ時で一方向あたり150台/h以下。根拠は CROW, 2007, p.173)みたけ通りのような環境に適した水準です。自転車道の路面と緩衝帯を同じ高さに揃えれば、体感的な幅員の狭さを緩和できます(CROW, 2007, p.48)。



駐車枠を設けた場合

路上駐車空間が必要な場所に限り、緩衝帯を削って捻出するイメージです。1、2台分の枠を設けてすぐ標準断面に戻す場合、車道の走行車線は細かく蛇行する線形になるので、速度を抑えるシケインとして機能させられるかもしれません。



区間途中の横断歩道(信号なし)

信号機のない横断歩道で歩行者が安全に横断できるようにするには、車道の上下線を分離して、歩行者が一度に一方向だけ確認すれば良いようにrefuge islandを設置するのが効果的です。こうすることで横断歩道とその前後の違法駐停車や違法追い越しも牽制できます。

refuge islandの幅(横断者視点で言えば「長さ」)は、自転車が待機することも考えれば2.0mが絶対に譲れない最低ラインです。これを下回れば自転車の車体の一部が車道にはみ出してしまい、待機中に車に撥ねられる恐れがあります。

図では表現していませんが、横断歩行者を優先するようドライバーに促す工夫として、ゼブラ部分の路面を嵩上げして速度抑制ハンプ(speed table)として機能させるのも良いでしょう。



山手通りとの信号交差点の手前

現実の道路では交差点流入側の車線は左折レーンと右折レーンの2本が用意されていますが、隅切り部分の歩道と自転車道の配置がかなり苦しくなるので、欲張らず1本にまとめた方がゆとりある設計ができます。(将来、交差点を直進できるようにするのかもしれませんが。)



車道を3車線にした場合

車道に無理やり3車線を押し込んだ場合、車線幅がギリギリになる上、緩衝帯の幅も切り詰める必要があるので、乱横断防止柵と街灯の柱を両方立てたり、共同溝の地上機器のようなかさばる工作物を設置する余裕は無くなります。



みたけ通りと山手通りの交差点の平面設計例(ベース画像の出典

みたけ通り(図の上下方向)の車道を9.0m幅とした場合の交差点平面構造案。

自転車道は交差点手前で打ち切らずに連続させると、隅切り部での歩行者との不毛な錯綜を防ぐ効果が期待できます。しかし横断歩行者の滞留空間などを考えると線形を急にせざるを得ません。車道が6.0m幅ならもっと余裕を持った設計ができます。

図中の自転車道の幅はみたけ通りと山手通りで違いますが、これは山手通りの自転車道を(現実には2.0m幅ですが)3.0m幅との設定で描写しているからです。横断箇所の少ない主要幹線道路では、自転車道は双方向通行にした方が、
  • 安全(出発地から目的地までの迂回距離が縮まり、リスクへの曝露量が減る)
  • 便利(言い換えれば交通モードとしての競争力が相対的に上がる)
なので、現状の双方向での運用自体は妥当と考えられますが、それには2.0mという幅員は狭すぎます。双方向であれば2.5mが最低ラインであり(CROW, 2007, p.175)、起伏の多い山手通りでは上り坂でのフラつき増加、下り坂での速度上昇を考慮してさらに広くする必要があるからです。



2018年4月26日追記{

自転車レーンを設置した場合


現状でも車道を通行している自転車が比較的多いことを考えると、みたけ通りに自転車道はやや過剰かもしれません。そこで自転車レーンを整備した場合も考えてみました。

バッファとボラードによる簡易的な分離

路上駐車に塞がれるのを防ぐため、視覚的分離にボラードを加えています。

自転車レーンの体感的な幅員はバッファがある分広がり、縁石とボラードの圧迫感で狭まるので、差し引きでは2.0mになります。推測条件は次の通り:
  • ボラード(ポストコーン)は直径80mmでバッファ中央に設置
  • 縁石までの側方余裕 0.125m (CROW, 2007, p.48)
  • ボラードまでの側方余裕 0.325m (CROW, 2007, p.48)

日本では自転車レーン上の駐車問題はマナー改善や取り締まりで対処すれば良いとする考え方が根強いですが、同様の問題は日本に限らずイギリス、カナダ、オランダなどでも見られるので、ソフト対策でどうこうできる課題ではないと認識すべきです:

aseasyasriding (2012) ‘Cycle Superhighway 2’, As Easy As Riding A Bike, 27 June. Available at: https://aseasyasridingabike.wordpress.com/2012/06/27/cycle-superhighway-2/ (Accessed: 25 April 2018).

Lakey, J. (2009) Annette St. bike lane not a parking spot | The Star, thestar.com. Available at: https://www.thestar.com/yourtoronto/the_fixer/2009/07/22/annette_st_bike_lane_not_a_parking_spot.html (Accessed: 25 April 2018).

‘Crap Groningen Cycling Infrastructure #1 – Damsterplein’ (2017) The Alternative Department for Transport, 8 May. Available at: https://departmentfortransport.wordpress.com/2017/05/08/crap-groningen-cycling-infrastructure-of-the-week-1/ (Accessed: 25 April 2018).


またイギリスとオランダは自転車レーン上への駐停車を(ルール未整備の日本と違って)禁止していますが、十分な抑止力になっていません。

Waiting and parking (238 to 252) - The Highway Code - Guidance - GOV.UK (no date). Available at: https://www.gov.uk/guidance/the-highway-code/waiting-and-parking-238-to-252 (Accessed: 25 April 2018).
(駐停車に関する条項はRule 240)

Koninkrijksrelaties, M. van B. Z. en (no date) Reglement verkeersregels en verkeerstekens 1990 (RVV 1990). Available at: http://wetten.overheid.nl/BWBR0004825/2017-07-01#HoofdstukII_Paragraaf9_Artikel23 (Accessed: 25 April 2018).



駐車スペースが必要な箇所の構成例

駐車枠への車の出入りがあまり頻繁でない環境であればこの構成でもさほど危険ではないと考えられますが、ドア衝突事故を防ぐために駐車枠と自転車レーンの間にバッファ(critical reaction strip)が必要です。

バッファを設けずに自転車レーンを駐車枠に隣接させると、自転車利用者が駐車車両に寄りすぎてしまうことが研究で分かっているからです:

Torbic, D. J. et al. (2014) ‘Recommended Bicycle Lane Widths for Various Roadway Characteristics’, NCHRP Report, (766). doi: 10.17226/22350.

図ではバッファ幅を0.75mとしました。車体幅が1.8m程度までの乗用車であれば、乗員が後方確認せず一気にドアを全開にしても自転車がぶつかる恐れは小さいです。ただし車体幅2.5mの大型車ではバッファ部分も車体で塞がってしまうので、大型車の駐停車需要があるのなら、駐車枠の幅もそれに応じて広げる必要があります。



区間途中の横断歩道(信号なし)の構成例

自転車道の場合と同じく、中央に交通島を設けるのが望ましいです。




山手通りとの交差点の手前

単路で自転車レーンを採用する場合でも、信号交差点の手前では自転車道に遷移させた方が自転車にとって利便性、安全性が高まります:
  • 自転車の信号待ちの位置が車より十数メートル前方になり、左折車に巻き込まれるリスクが減る。
  • 左折車と直進自転車の動線の交差角度が直角に近づき、自転車がドライバーから見落とされにくくなる。
  • 車道の流れから保護された場所に二段階右折の待機場所を用意できる。

これらの利点について詳しくは次の動画を参照:


Protected Intersections For Bicyclists from Nick Falbo on Vimeo.



交差点手前で自転車レーンから自転車道に遷移する設計の実例については次の記事を参照:

Wagenbuur, M. (2014) ‘Transitions from one type of infra to the other’, BICYCLE DUTCH, 10 December. Available at: https://bicycledutch.wordpress.com/2014/12/11/transitions-from-one-type-of-infra-to-the-other/ (Accessed: 25 April 2018).

}2018年4月26日の追記ここまで