2016年7月21日木曜日

札幌・西5丁目線のブルーウイング実験の感想(代替案付き)

一関 深志・萩原 亨・大部 裕次(2015)「札幌都心部における荷捌き等停車車両を踏まえた自転車通行空間創出について」『国土交通省 北海道開発局』

2016年9月21日追記{
報告書ファイルが当初のURLから別のURLに移動しています。


図の出典: 一関・萩原・大部(2015, p.2)

自転車通行空間を示す矢羽根型の路面表示を、路上駐車に塞がれても完全に隠れないように大型化した札幌市西5丁目線の社会実験の感想です。大型矢羽根の問題点と代替案、そして報告書の疑問点について書きました。

2016年7月23日 写真と文を追加



先行する社会実験の評価

札幌市ではこれまで、国道230号北1条通市道西3丁目線で自転車レーン(類似物)の整備が行なわれており、報告書は先行整備事例について

一関・萩原・大部(2015, p.1)
平成24年には、一般国道230号北1条通において、車道路肩に自転車通行空間(北1条通ブルーレーン)を明示し、自転車を歩道通行から車道通行へ促す社会実験を実施し、有効性が確かめられた。
との結果を紹介しています。ここでは「有効性が確かめられた」という表現が使われていますが、実際は殆ど効果が無かったと考えられます。
北1条通の社会実験の報告書に書かれている自転車レーン利用率(=車道走行率)は5割前後ですが、

図の出典: 新井・仲田・平井(2012, p.4)

図中で車道通行率がピーク(63%)になっている日は街頭指導で数字に下駄を履かせており、長期的に持続する水準とは言えません。(社会実験の期間終了後も延々と指導員を立たせる訳にはいきませんから。)

また、新井・仲田・平井(2012)は調査方法を明示していませんが、p.4で
実施区間における自転車及び歩行者の交通量は、通勤通学時間帯の朝8時台がピークであり、その時間帯での自転車利用者の車道通行率は、実験前は僅か8%であったものが、実験中は平均で49%と大幅に向上し、啓発活動を実施した日では63%となった
新井 康嗣・仲田 田・平井 篤夫(2012)「札幌都心部における都市型積雪寒冷地の自転車走行空間の実証実験について」『北海道開発局 平成24年度技術研究発表会』

と書いている事から、恐らく調査時間帯は朝の8時台(自転車利用者の多くが安心・安全より速さを優先する時間帯)のみで、一日通しで集計すればもっと低い数字になったと考えられます。2014年に現地を観察した人のウェブページには、

札幌の自転車用レーンは危険地帯
現地で数えると90%近い自転車が「歩道」を走っていました。これはレーンの設置前と同等水準です。設置されたレーンを見て一度は車道走行を試した市民が「ここは危険である」と判断して歩道に戻ってしまったのでしょう。
と書かれています。(このように一日の中で最も都合の良いデータが取れる時間帯だけを調査対象にするのは自転車インフラ整備の社会実験における研究不正の定番の手口で、これまでも各地で頻用されてきました。捏造や改竄には該当しない為、研究倫理を逸脱しているとの意識が希薄なのでしょう。)

参考として、自転車道(車道から構造的に分離された自転車レーン)を整備した三鷹市のかえで通りは、自転車道利用率が(調査時間帯は不明ながら、現地に行って利用状況を見ても納得できる)9割以上(三鷹市, 2010)、同じく自転車道を整備した名古屋市の桜通も日中12時間平均で8割以上の水準を達成しています(名古屋国道事務所, 2012)。私の感覚から言えば、利用率8割超えが安定的に続かないのであれば、そのインフラは失敗作です。

名古屋国道事務所(2012年8月1日)「桜通の自転車利用者増加! ~桜通自転車道 開通1年後の調査結果~」p. 5
三鷹市(2010年4月4日)「広報みたか」No.1424


北1条通の最大の失敗要因は恐らく路上駐停車で、新井・仲田・平井(2012, p.6)は
実験区間における路上駐停車台数は、実験前と比較し42%の減少が見られたものの、アンケート調査のフリーアンサーからは危険性及び利便性の低下を指摘する声が挙げられている
と指摘していますが(ここでも調査方法が明示されていない)、そもそも同一空間に自転車通行機能と車の駐停車機能を重複して割り当てているのですから、これは当然の結果です。

先に紹介した「札幌の自転車用レーンは危険地帯」ではブルーレーン上の路上駐車が全く取り締まられていない実態が報告されていますが、整備区間に駐停車禁止の標識は見当たらないので、ルールに則った対応なのかもしれません。

寧ろ、法的にも構造的にも効力の無い簡素なインフラを整備するだけで路上駐車が一掃されるかのように自転車利用者に期待を抱かせ、本来整備すべきだったインフラ形態から目を逸らせようとする方が悪質ですね。

しかし市民は本当に必要な物をちゃんと分かっていて、西3丁目線の社会実験でのアンケートには、構造的に分離された通行空間を求める意見が多数寄せられています。



一関・萩原・大部(2015, p.1)
これらの実験の結果、自転車ネットワークの拡充の必要性、無くならない路上駐停車車両の対策、交通ルール順守の取り組みの継続など、引き続き取り組むべき課題が分かってきたところである。
という文脈で、この西5丁目線の社会実験に繋がります。

但し、2つの社会実験で露呈した問題(無くならない路上駐停車、レーン整備後も歩道を走る自転車)は国内外のこれまでの事例で多数報告されてきた事で、社会実験をするまでもなく分かっていた事です。札幌市は、失敗する事が明らかな施策をわざわざ繰り返した形です。

なお、国道230号の自転車レーンでは信号待ちをしていた自転車利用者が後続車に撥ねられて死亡する事故が2013年7月19日に発生しましたが、レーンを設置した札幌都心部自転車対策連絡協議会の代表、北海道大学の萩原亨教授がその件について何もコメントしていない事を地元紙が問題視しています。2015年11月の「自転車の車道走行実現に向けて」と題した講演でも荻原氏は死亡事故に触れていません。

MachiKadoNews Sapporo「自転車死亡事故を追及!
全国自転車問題自治体連絡協議会(2015年12月25日)「平成27年度 全自連全日本研修会




新たな解決策の提示

一関・萩原・大部(2015, p.2)
前述の課題に対し、本社会実験では以下に示す3つの解決策について検証した。
  1. 自転車の車道通行の促進及び歩道の歩行者の安全性向上のため、既設自転車通行空間である一般国道230号北1条通ブルーレーンに接続する西5丁目線において、法定外の矢羽根型路面表示により、車道左側に自転車通行位置を明示
  2. 停車車両と自転車の共存を図るため、自転車が停車車両を追い越す際の安全対策を想定した、全国初の大型の矢羽根型路面表示(ブルーウイング)を設置
  3. 荷捌き等停車車両抑制に向け、地域と協働した道路の利用方法・ルールづくりを検討。
先行実験での失敗を受けての新たな解決策ですが、注目すべきは2の「停車車両と自転車の共存を図る」という目標設定です。車道の端が車に塞がれる事はもう動かない前提として捉え、車に塞がれても隠れないように矢羽根を方を大型化した、通称「ブルーウイング」を提案しています。

図の出典: 一関・萩原・大部(2015, p.2)

実験実施主体の広報ページ
札幌都心部自転車対策協議会「西5丁目線自転車通行空間社会実験ポータルサイト

実験中の現地の様子を写真でレポートしているページも有り、かなり危なそうな様子が伝わってきます。
札幌の自転車通行空間社会実験(2015)

設置した萩原氏自身も懐疑的な見方をしています。
何をやっているかというと、一応の売りは、小さい矢羽根に対して大きな矢羽根です。かなり怪しい発案ですが、「紆余曲折、すったもんだの、いまだに解決しないけど、試しにやってみてます矢羽根」でございます。まかり間違っても、地元に帰られて、警察の方にこれをやってもいいのだよねと言うのはやめてくださいね。そういうお勧めをしているわけではなくて、いろいろあって対立しながらもやっていますというふうにご理解ください。やってもいいという話ではございません。
全国自転車問題自治体連絡協議会(2015年12月25日)「平成27年度 全自連全日本研修会」 p.17 (pdf p.22)

さて、このブルーウイングは、北米や豪州で既に危険性が明らかになっている「ドアレーン」と構造が似ています。

Steve. (2011-09-17). "Hillsborough Street’s Door Zone Bike Lanes"

この位置を走る自転車は、



突然開いたドアにぶつかって車道中央に投げ出されたり、ドアを回避した結果、後続の車に撥ねられる事が有ります。上の車載映像ではサイクリストは生存していますが、運悪くトラックに撥ねられて死亡したサイクリストもいます(ABC News, 2015)。

ABC News. (2015-02-28). "Cyclist 'car-doored' before being killed by passing truck in Melbourne


日本ではまだ車道を走る自転車がそれほど多くなく、車道を走る自転車も路駐車両の手前で歩道に上がって回避する場合も有るので、ドア衝突事故は統計上目立ちませんが、カナダのバンクーバーでは最も頻繁に起こっている自転車事故で、道路構造の改良によってリスクを低減すべきだと言われています(BikeMaps.org, 2016)。

BikeMaps.org (2016-04-22). "City of Vancouver Doorings: Caution-Zones Map". BikeMaps Blog 


札幌の大型矢羽根はその周辺に「車両追越時注意」との注意書きを添えていますが、全ての自転車利用者が常に完璧に危険予測できるとは限りませんし、後続車からのプレッシャーや幅寄せなどでドアゾーンの中に追いやられてしまう事も有るでしょう。そもそも、漠然と「注意せよ」というだけで、「ドアゾーンを避けるように」という具体的な指示をしていません。

図の出典: 一関・萩原・大部(2015, p.4)

しかも実験結果では、停車車両の横を通過する時、8割以上の利用者がドアゾーンと重なるブルーウイングの上を走ってしまっています。デザインによって利用者を危険に誘導してしまっているのです。一関・萩原・大部(2015, p.4)はこの問題に一言も触れていません:
ほとんどの自転車が大型矢羽根の右側(着色部分)を通行していたことから、追い越しに際して、自転車利用者の目印として一定の効果が見られる結果となった。

構造自体に危険が内在するデザインをしておいて、安全確保は利用者の注意力に委ねるというのは、道路管理者として、人命に対する責任を放棄するようなもの……

……と草稿に書いていたんですが、2016年7月の時点で既に大型矢羽根は削り取られていたそうです。


非常に疑わしい回答ですね。ガイドラインに法的な強制力が有ったでしょうか? それ以前に、ガイドラインは各地のインフラ整備実験の結果も参考にして作られるものではなかったでしょうか? であれば、この説明は根拠と結論が倒錯しています。
ガイドラインに載らない見込みになったので大型矢羽根を撤去した
ではなく
大型矢羽根に問題が有ったのでガイドラインに載らない見込みになった
でしょ? 一見ちゃんと説明をしているようで、何か重要な事を隠していると疑わせる回答です。


なお、大型矢羽根の手前で歩道に上がる自転車が2%しかいなかった点については、
とのトリックが有ったのではないかとも指摘されています。一関・萩原・大部(2015)は観測を行なった地点がどこだったのか、その周辺がどのような道路構造だったのかについて詳細を明かしていませんから、都合の良いデータが取れそうな場所だけを意図的に選んだと疑われても仕方ありません。



代替案

では大型矢羽根の他にどんな横断面構成が有り得たのか。一つの解は、停車車両の位置はそのままに、ドアゾーン分の緩衝帯を挟んで自転車レーンを配置する構造です。

代替案Aの全体図(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

代替案Aの部分拡大

この構造は、緩衝帯の無い単なる幅広の自転車レーンよりも、利用者にドアゾーンを避けさせる上で有効である事が既に分かっています(Steven Vance, 2014)。

Steven Vance. (2014-07-29). "Study: To Keep Bicyclists Outside the Door Zone, You Need a Buffer". Streetsblog Chicago

しかし、緩衝帯を挟む余裕が有るなら、同じ幅員でより安心感の高い(高い利用率が見込める)構造も選択肢に入るわけで、「駐停車空間は車道の端」、「自転車は残りの余った空間」という発想に固執するのは無意味です。西5丁目線は車道幅員が12.0mですから、停車帯と自転車レーンを入れ替えた以下のような構成も可能でした。

代替案B(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

自転車レーンと停車帯の間の緩衝帯は、自転車のドア衝突事故を防ぐだけでなく、車を降りた乗員が自転車に撥ねられないようにする為にも必須の要素です。日本ではまだこの要素の重要性が理解されておらず、品川の都道480号では緩衝帯の全く無い危険な構造が採用されています(kosukemiyata, 2016)。

kosukemiyata(2016年3月6日)「駐車需要を考慮した都道480号線の自転車専用レーン」『Togetterまとめ』 


余談ですが、このような事故リスクが問題になった時、道路デザインの欠陥を棚上げして運転者の判断ミスや不注意を責め立てたり、マナーや思いやりが大切などと訴える感情的な議論が日本では支配的です。

しかし、安全を持続的に維持(SWOV 2012)するには、ヒトという生き物が注意力も判断力も忍耐心も不完全な存在であると認め、それを前提に道路設計や教育プログラムを改善する発想が不可欠です。注意力や思いやりで全て解決できるという無責任な精神論は、その妨げになります。

SWOV. (2012-11). "Background of the five Sustainable Safety principles"


代替案C(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

本題に戻って横断面構成ですが、更に停車帯を1本に集約して空間を捻出する事で、自転車がこの路線を双方向通行できるようにレーンをもう1本追加する事もできます。

社会実験では設計上何の工夫もせず安易に自転車の逆走を禁じていますが、それは移動手段としての自転車の優位性を不当に低く抑えるもので、都市中心部の過剰な車利用を抑えて自転車に転換させるという、世界各都市が取り組んでいる方向とは正反対の姿勢です。

代替案では自転車と車の間に分離工作物を置いています。このような物理的な区切りが無ければ、習慣や利便性から車道の端に寄せて停めようとするドライバーが車を自転車レーンに入れてしまう可能性が高いからです。




イメージ図はStreetmixに始めから用意されているボラード画像を使いましたが、三角コーンを並べるだけでも効果を発揮するでしょう。これはニューヨークに先例が有ります。




Sarah Goodyear. (2015-10-30). "An Anonymous Group Is Fixing Bike Lanes Where New York Isn't". CityLab

このコーンは市交通局が正式に設置したのではありません。構造的欠陥から路駐車両に塞がれていた自転車レーンに何の対策も取らないお役所仕事の腰の重さに業を煮やし、匿名の市民がゲリラ的に三角コーンを置いて、僅か30分の作業時間と500ドルの費用で問題が呆気なく解決できる事を示したという、一つの象徴的な出来事です。

簡単に撤去できる分離工作物は、都市空間の変革の口火としてTactical urbanismが用いるツールですが、札幌ではそれ以上の意義が有ります。世界有数の豪雪都市である札幌では冬の間、大量の雪を車道の脇に積み上げておく必要が有るので、除雪作業の邪魔にならないように撤去する必要が有るからです。

札幌市(2016年2月22日)「道路種別毎の除雪水準


札幌市での自転車インフラ先行整備事例で、構造的な分離が必要な危険な環境であるにも関わらず分離工作物の設置を断念しているのは、これが理由です。

新井・仲田・平井(2012, p.1)
自転車道の場合、柵や縁石などによる構造分離が伴うため、整備コスト及び冬期除雪など維持管理の問題が懸念される状況である。


代替案C(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

そこで代替案では降雪期に分離工作物を撤去し、


代替案C(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

自転車レーンと緩衝帯を堆雪帯として使う事を想定しています。


代替案Cのバス停部分(Streetmixで作図、出力画像をGIMPで加工)

あと、西5丁目線に路線バスが通っているかどうかは知りませんが、仮にバス停を配置するとしたらこうですね。停車帯を乗降場(boarding/alighting pad)に置き換えています。西3丁目線にもそのまま適用できそうです。



荷捌き駐車場

この社会実験でもう一つ特徴的なのは、トラックの路上駐車を抑制する目的で、荷捌きの為の駐車場と荷物の一時保管所を(3日間限定ですが)設けた点です。

オランダのセルトーフンボスにもこれに似た先行事例が有り、歴史ある中心市街への車の流入を抑制する為に、街の端にターミナル倉庫を設けて荷物を大型トラックから小型バンに積み替えて共同配送したり、自家用車の駐車場利用料に中心部と町外れで差を付けて来街者にパーク&ライドを促したりしています。

過去の関連記事: 物流をコンパクト化するオランダの街




札幌の社会実験は対象が貨物車だけでマイカー利用は従来通り野放しにしている点でセルトーフンボスより遥かに志の低いものではありますが、モーダルシフトの第一歩としては注目に値します。


実験中の配送の仕組み

図の出典: 一関・萩原・大部(2015, p.4)

一関・萩原・大部(2015, p.5)
c)荷捌き等停車車両の変化
荷捌き対策を実施した結果、矢羽根の設置効果も含め、西5丁目線での荷捌き停車車両台数は、図-12に示す通り、社会実験実施前に比べて約5割減少した。荷捌き等停車車両の減少により、写真-6に示すように、車道左側の自転車通行空間は一定程度確保される結果が得られた。

d)新たな荷捌きシステムの検討
各運送会社は共同荷捌き場に荷卸しをすることで、図-13に示す通り、通常路上で約3時間程度かけて行われていた荷捌き(「荷卸し」+「配送」)が、路外での約13分程度の短時間の「荷卸し」のみで済む結果となった。この路上での停車時間の大幅な短縮は、自転車通行空間の確保など道路利用者の利便性や安全性の向上のみならず、労働力不足の課題もある運送事業者の負担減にも繋がると思われる。
また、共同配送の仕組みを組み合わせることで、「配送」が完了するまでの総所要時間も約67分と大幅に短縮になる結果を得られた。これは、運送事業者のみならず、荷物の受け取り側(まち)でのサービス向上にも繋がるものといえる。
(マーカー強調は引用者)


図の出典: 一関・萩原・大部(2015, p.5)

普段は運送業者が担っている配送作業の一部を新たに配置した地上スタッフが担当し、運送業者のスタッフは運転と荷卸しだけで済むようにしています。
  • 運送業者の作業時間: 約167分短縮!
  • 配送の総所要時間: 約67分短縮!
など、非常に印象的な数字が並んでいて、最初報告書を読んだ時は「ふーん、凄いじゃん」と思いました。



粉飾された数字

しかし、よくよく見るとおかしな事に気付きます。
  • 通常配送では人員2名×作業180分なので総労働時間は360分
  • 実験時は人員2名×作業13分+人員7名×作業113分なので総労働時間は817分
仮に全てのスタッフの時給が同じなら人件費が2倍以上に膨れ上がっている事になります。一関・萩原・大部(2015)は運送業者の負担軽減を強調しますが、地上スタッフについてはまるで、どこからともなく現われて勝手に仕事を終わらせてくれる妖精さんのように扱っています。

もちろん、作業には効率化の余地が有る(台車ではなくカーゴバイクで運ぶ)とか、運転免許を持たない人の労働力を活用できる、などと肯定的に考える事もできますが、一関・萩原・大部(2015)の報告書は印象的な数字で成果を強調する事に汲々としており、裏で大量投入している労働力から目を逸らそうとしている点で不誠実です。

作業効率の低下に関しては他にもこんな指摘が有りました。


ストックポイントの場所は恐らくここ



2016年7月23日追記{
荷捌きの場所を集約するという取り組みは単体では魅力的に見えますが、その施策が果たして西5丁目線という文脈に必要なものなのか、合致するものなのかは疑問です。

例えば丸の内のように道路全面を歩行者専用にするというなら分かります。

丸の内仲通り(2016年4月30日撮影)

丸の内仲通り(2016年4月30日撮影)

或いは、共同配送の小型バンのみ通行を許可し、大型トラックやマイカーの乗り入れを規制する場合にも有効でしょう。

しかし西5丁目線はトラック以外の車の通行・駐停車を依然として容認しています。わざわざ荷捌き場所を別に用意してまで守るべき環境が未だ成立していないのです。施策間のレベルが揃っておらず、ストックポイント設置だけが先走っている形ですね。



路駐問題の矮小化

路上駐車が半減したとの数字(図-12)や、車道端がクリアになった写真(写真-6)で、恰も自転車通行環境が大幅に改善したかのような印象を与えようとしていますが、路上駐車の内、トラックが占める割合が低いなら、自転車利用者の実感としては殆ど効果無しとなるでしょう。


現地の実走動画を見ると、



  • タクシー 1台
  • トラック 2台
  • 軽貨物 3台
  • 自家用乗用車 16台
で、曜日や時間帯によってだいぶ変わるでしょうが、ここでは路駐車両の圧倒的多数が自家用乗用車でした(数え間違いが有るかも)。



実験結果についての執筆者の認識

以上見てきた問題点は、実験報告書では目立たないように書かれていましたが、執筆者の一人、萩原亨氏は去年冬の講演で、意外と率直にこれらの問題を認めています。報告書とは正反対の論調なので、併せて読む事をお勧めします。

全国自転車問題自治体連絡協議会(2015年12月25日)「平成27年度 全自連全日本研修会