2016年3月9日水曜日

中央分離帯を自転車レーンにするアイディアについて

Bicycle street Design competition AOYAMA の受賞作品だそうですが、









歩道側の自転車レーンが5 km/h制限になっているのは、自転車レーンに横付けした車に乗り降りする人の安全を優先した結果でしょうが、子供の自転車であっても、補助輪が外れるくらいの年齢になれば15 km/hくらいは普通に出るでしょう。況して、親子連れでない普通のママチャリ利用者にとっては、5 km/hという速度は車体を安定させるのも困難な非現実的な水準です。

一方、既存のデザインとして引用したNYCのprotected bike lane + floating parking lane構造では、駐停車枠と自転車レーンの間にバッファ(buffer; 緩衝帯)を設け、自転車が車の乗員やドアと衝突するリスクを解消しています。それだけでなく、駐停車枠をこの位置に設ける事には、沿道の駐車場に出入りする車そのものを減らせる(=自転車とのコンフリクト・ポイントを削減できる)という利点も有ります。

中央分離帯の自転車レーン(手塚氏の案では自転車道)は30 km/h制限になっており、レーン上に駐輪場も設けられていますが、沿道へのアクセス性は悪く、実質的には走り目的で街を通過するだけのスポーツ自転車利用者という極めて限られた層だけが恩恵を享受できるインフラ(というか一種の娯楽施設)になりそうな気がします。そもそも中央分離帯に着目したのも、そこが車に使われていない「空き地」で、車の既得権益を損なわないからではないでしょうか?

私には両者のデザイン案が、自転車利用者を慮ったかのように装いつつ、ドライバーの都合を全面的に優先する、旧来の価値観の単純な延長線上に在るものに見えます。そしてそんな案に最優秀賞を与えてしまう審査委員よ……。

日本の自転車政策の議論は2000年代に入った頃から、ママチャリを近距離移動に使うボリューム層を無視して、実際はマイノリティーに過ぎないスポーツ指向の利用者の便益を過度に強調する傾向が強まっていますが、このコンペティションもその流れに沿ったものと言えますね。一般的な自転車利用者の15〜20km/hという速度帯域を綺麗に外した手塚氏の案がそれを象徴的に物語っています。

建築の世界からは度々、保守的な一般人の価値観に合わせていたら進歩が生まれないというような嘆きの声が聞こえてきますが、それ以前に、その建築作品は本当に社会にとってより良い価値を提供するものなのかどうか、客観視してほしいですね。

2016年3月16日追記

Copenhagenize.comの最新記事でも車道中央の自転車レーンを批判する記事が発表されました。舌鋒の鋭さは私より数段上。いつも通りのキレッキレの名文ですね。批判の内容は概ね私と同じですが、車道のど真ん中に自転車レーンを配置した実例が、ワシントンDCだけでなく、バルセロナ、ナント、サンパウロにも見られるとの事です。そういえばコロンビアのボゴタにも有ったっけ。となると、千葉氏、手塚氏のデザインの中で新規性を謳える部分って、本当しょーもない点しか残らないんじゃ……。