2016年1月13日水曜日

自転車活用推進研究会の去年の成果 (2) 自転車名人という象徴

雑感の続きです。



NPO自転車活用推進研究会(2016年1月12日)「NPO自活研ニュース」
二年ごとに選考している「自転車名人」には六代目として漫画「弱虫ペダル」の作者で、ご自身もアマチュアレーサーである渡辺航さんが就任しました。弱ペダに触発されてロードレーサーに乗る若い女性が増え、自転車の新しい世界が拓かれようとしています。渡辺名人はその最大の功労者ということになります。
この選考結果は或る意味でとても象徴的だと感じました。

自転車活用推進研究会は、自家用車から自転車へのモーダルシフトを実質的に後押しする施策——誰もが(8歳でも80歳でも)安心して自転車に乗れる通行環境の整備などついては(現段階では)関心が薄く、それよりも車道を走らせたりヘルメットを被らせるなど、どちらかといえば自転車利用のハードルを上げる方向の施策に注力しているように見えます。

一方で、弱虫ペダルは利用者の裾野の拡大に直接的に貢献しています。自活研の仕事に空いている巨大な穴を、一つの作品の力が埋め、補っている状況と言えるでしょう。

日本のこれまでの自転車史を振り返っても似た構図が見られます。

自転車文化を安定的に維持・拡大していく為の自転車利用環境を地道に整備していくのではなく、時々まぐれで起こる自転車ブーム(自転車ツーリング・ブーム、MTBブーム、東日本大震災時の帰宅困難やガソリン不足など)に頼った綱渡りを、日本は続けてきました。

そんな具合で、安全・安心・快適に使える自転車インフラの整備があまり進まないまま放置してきた状況ですから、せっかく弱虫ペダルからロードバイクに入ってきてくれた人が、車道を走るのが怖くて普段は全く乗らなくなってしまった、というようなもったいない話もチラホラ耳にします。

ですから、自転車活用推進研究会という強力な(はずの)advocacy groupが、自転車名人として渡辺航先生を讃える、というよりその影響力を恃む事は、とてもいびつな構図に思えるのです。


NPO自転車活用推進研究会(2016年1月12日)「NPO自活研ニュース」
昨年のうちに上程されるかと期待したのですが、自転車活用推進議員連盟が準備した「自転車活用推進法案」の国会提出は今年以降にずれ込みました。この法案は、これまで駐輪場や自転車道路整備、競輪の根拠法などの個別法しかなかった自転車政策の基本となる理念を明確にし、健康、環境、災害対策などに貢献する交通手段として位置づけ、国として健全な利用を推進するものです。国の基本理念が示されれば、各自治体も本格的に動き出すでしょう。法案は東京オリンピック・パラリンピックに向けての施策の出発点にもなるので、早期の法案成立を期待したいと思います。
一方で、このように強い政治的影響力を持ってはいるのです。個別施策のレベルではおかしな方向に進んでいても、抽象的な理念のレベルでは至極真っ当な、力強い働きをしています。

たぶん自転車活用推進研究会には、施策のディテールについての知識が欠けていて、思い込みや信念を動力に邁進してしまっているんだと思います。『ノラガミ』に喩えると兆麻のいない毘沙門みたいな。



シリーズ一覧
自転車活用推進研究会の去年の成果 (1) 246号の矢羽根
自転車活用推進研究会の去年の成果 (2) 自転車名人という象徴