2015年6月2日火曜日

実は理想に近かった従来の交差点構造

2015年6月4日 加筆訂正


CADだと「正確に描かなきゃ」と気負ってしまうので、失敗したコピーの裏に鉛筆で適当に描きました。3種の交差点構造の比較です。



まずは現在日本で一般的な交差点構造から

この構造は、自転車が歩道を通る限りは比較的上手く機能します:
  • 左折する自転車は車道の信号とは無関係にいつでも交差点を通過できる
    (信号の待ち時間が90秒近くになる大型交差点では非常に大きな利点)。
  • 直進する自転車は車より前方で信号待ちできる(ヘッドスタートが切れる)。
  • 自転車は横断帯上で優先通行権が有り(*1)、進路を左折車に塞がれない。
  • 但し、歩道上で自転車と歩行者が不規則に交錯する。
*1 道路交通法38条1項

しかし、自転車が車道を通ろうとすると問題が生じます:
  • 左折する自転車は車と同じく長時間待たされる。
  • 直進する自転車も左折車の待機列に阻まれて円滑に進めない。
  • 自転車が自転車横断帯に迂回するので(*2)、ドライバーの想定外の動きになる:
    • 左折するのかと思いきや、急に右旋回して自転車横断帯を直進。
    • 横断帯から歩道に上がると思いきや、元の車道に復帰
      (交差道路から信号無視で左折するのと実質的に同じ)。
*2 道路交通法63-6条 2015年6月6日追記 63-6条は横断する場合。交差点の通行については63-7条。

そこで近年、警視庁はこの自転車横断帯を見境無く片っ端から消しています。

消された自転車横断帯の例(笹目通り・観蔵院入口

幹線道路と生活道路の交差点ですが、中央分離帯の柵で遮断されているので、実質的には単路の横断歩道と同じです。自転車横断帯が有ろうが無かろうが、笹目通りを渡る自転車はそこを通るしかありません。

消された自転車横断帯の跡を通る自転車

こういうのを見ると、消すべきか残すべきかを一つ一つのケースで慎重に検討したとは思えないんですよね。ていうか寧ろ、法律にちょこっと追加の規定を書き加えておけば除去工事が不要で安上がりだったんじゃ……。(「車道を走って来た場合は無視して良い」、みたいな。)


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さて、自転車横断帯に代わって今度は青い矢羽根模様(ナビライン)が車道端の延長線上に引かれ始めています。

ナビラインで自転車を直線的に誘導する構造

ところが、この構造が想定する通行形態では、
  • 交差点を円滑に通過できるのは先頭で信号待ちをしていた自転車だけ。
  • 後から来た自転車は左折も直進も円滑にできない
    (左折車の待機列がナビラインを塞いでしまうので)。
という弱点が有り、自転車が足止めを嫌って不規則な振る舞いをします:
  • 赤信号の間に車の左脇をすり抜けて停止線を超え、交差点の角で待機する。
  • 交差点手前で急に歩道に上がる。
    (元から歩道を通行していた自転車や歩行者と衝突するリスク)
  • 左折待機車列の間を縫って前に出る。
    (右隣の車線を走ってきた車と衝突するリスク)

直進自転車の進路を塞ぐ左折車の待機列

それ以前に、交通の激しい幹線道路では車と混じって走る不安感も有り、大半の利用者は今まで通り歩道を走り、横断歩道を渡ります。

ナビラインを塞ぐ左折車と、従来通り横断歩道を渡る自転車

たまに車道上の自転車レーンを通る利用者もいるが、

大多数の利用者はこれまでと同じく横断歩道を選ぶ。

つまり、ナビラインが上手く機能するのはかなり限定的な状況で、全体的に見れば、従来の自転車横断帯の方が優れていたとさえ言えます。


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従来の自転車横断帯の欠点は、その前後で自転車の通行空間が明確化されていない事です。この為、歩行者と自転車が互いの動きを予測しにくくなり、円滑な通行を妨げています。そこで、オランダの交差点構造を参考に改良案を描いてみました。

オランダの交差点構造を参考にした改良案

色を塗りました。

落書きなので寸法は適当で、描写も簡略化/省略しています(点字ブロックやgive wayサイン、信号機など)。

構造案のポイントを箇条書きで説明します。

自転車視点(従来の交差点と同じ点)
  • 左折自転車は車道の信号とは無関係にいつでも左折できる。
  • 自転車の停止線は車よりずっと前方に在り、ヘッドスタートが切れる。
  • 直進自転車は左折車に進路を阻まれない。

自転車視点(改良点)
  • 二段階右折の待機場所が明確。
  • 車と空間が別々なので子供から老人まで誰でも安心して使える。
  • 逆走方向には曲がりにくいように鋭角にしてある。
    (この図の自転車道は一方通行の設定なので)
  • 自転車道上の横断歩道では横断歩行者を優先。
  • 自転車道と車道の境界は縁石を無くして乗り心地を良くしてある。

歩行者視点
  • 自転車の通行空間が明確なので、
    • 歩いている時、どこに注意を向けるべきか分かりやすい。
    • 信号待ちの時、どこに立ち止まってはいけないかが分かりやすい。
  • 自転車道と車道に挟まれた交通島の部分で信号待ちをする。
  • 車道を2回渡る場合はやや遠回りになる。
  • その他は従来の交差点と同じ。

ドライバー視点
  • 自転車が予想外の方向から飛び出してくる事が無くなる(たぶん)。
  • 車道上で自転車と混在通行する気苦労が無くなる(たぶん)。
  • その他は従来の交差点と同じ。

なお、この構造案は
  • 一回の信号待ちで溜まる自転車が数台程度。
  • 自転車道が一方通行でもさほど不便ではない。
  • 信号制御が歩車分離ではない。
という条件で組み立ててあります。条件が変われば(例えば一回の信号待ちで何十台も自転車が溜まるような幹線自転車道では)成立しない、乃至は冗長です。また別の構造を考える必要が有ります。


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外部サイトの関連記事
↑東京の従来型の交差点がprotected intersectionの類例として紹介されています。