2014年12月25日木曜日

フィアフル・エクスペリエンス

エジンバラ大学の学生グループが自転車利用者の道路上でのストレス水準を測定する実験をしています。日本の自転車行政や研究者が見落としている視点ですが……。



BBC(2014年12月22日)Testing cycling stress levels on Edinburgh's roads
The Google Glass I am wearing will be used to record my journey, along with my commentary.

My EEG headset will measure my stress levels by monitoring electrical activity in my brain.

実験の大要は、被験者に脳波計とグーグル・グラスを装着させ、自転車で道路を走ってもらい、どこで被験者のストレス水準が高まったのか、どこでどんなコメントを発したのか(「危ない!」など)を記録するというものです。

自転車の交通分担率を引き上げる事を目指した実験で、ストレス水準をリアルタイムに客観的に測定するという点が画期的ですね。安心感を度外視して車道走行を奨励する現在の日本の自転車行政や研究者には欠けている視点です。



The experienced riders comment on potential hazards in a seemingly matter-of-fact way, while those who are less experienced express their fears and often swear.

Michal points out: "In many cases, the inexperienced cyclists make very emotional comments and were getting very stressed, whereas the experienced cyclists were just stating the obvious like 'here comes another truck'."

実験の結果、経験の浅いサイクリストは危険箇所で感情的なコメントや罵言を発し、強いストレスを受けていますが、経験豊かなサイクリストは事実を事実として冷静にコメントしているという違いが有ったそうです。

しかしながら、この研究グループの目標設定は完全に誤りだと言わざるを得ません。


The ultimate aim of the project is to develop a smartphone app giving cyclists information about the potential hazards on their route.

//中略

"We welcome this research if it helps to overcome these barriers, although we are slightly concerned that helmet mounted filming always seems more dramatic than the real experience.

研究グループはこのデータを基にして、危険箇所に接近した時にサイクリストに警告するアプリを開発する事を最終目標にしています。つまり、サイクリストに恐怖を生じさせる危険なインフラを放置したまま、初心者サイクリストが恐怖を「克服する(overcome)」後押しをしようという事です。

この方向性の無益さは、BBCの記事自体も、
But their work has already reminded us why campaigners argue it is investment in improved infrastructure which is most likely to encourage more of us to choose two wheels in future.

記事を読んだMark TreasureさんやSchrödinger's Catさんも
等しく指摘している点です。

私自身の経験に即して言えば、ロードバイクを買って車道を走るようになってから4年以上経ちますが、車に混じって幹線道路を走ったり、交通の激しい生活道路を走る事のストレスや恐怖は全く薄まっていません。変わった事と言えば、車の危険運転のパターンが少しばかり予想できるようになった事くらいです。(BBCの記事で、経験豊かなサイクリストのストレス水準に言及していない点が意味深ですね。)


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自転車の(片道5〜15km程度の移動手段としての)交通分担率を引き上げるという事は、車やバスや鉄道で占められている市場に食い込み、シェアを奪う事と表現できます。そんな堅固な既存市場にぶつける商品として、ユーザーに不安と恐怖を強いる乗り物が、果たして有望と言えるでしょうか?