2014年8月2日土曜日

蛍光ヴェストは危険なインフラの指標

GQ誌掲載の小川フミオ氏の2014年8月1日の記事
サイクリストって透明人間なのです
が、蛍光色のヴェストを着用する
イギリスの自転車文化を紹介しています。



いろいろな交通と一緒に道路をシェアしていくための大前提は、お互いに敬意を払うことである。同時に、事故防止のために自分ができる最大限のことをするのは、そこで生き抜いていくための賢い方法だ。たしかに、日本では、夏場は暑くて、ナイロンのベスト着用はきついかもしれない。だから、“着るべきだ”と声高に叫ぶのも気が引けるのだが、少なくとも英国の自転車乗りの安全意識に「GO」をあげておこう。

記事はサイクリストが蛍光色ベストを着用する事に、
どちらかと言えば肯定的な論調ですが、
これは道路交通システムの欠陥を容認してしまう、
問題有る態度です。

記事中でも触れられていますが、イギリスの道路は
サイクリストが安全に、安心して通行できる環境ではありません。

ヴェスト着用は、イギリス人の高い安全意識を反映したものというよりは、
体感的な事故リスクや車道走行の恐怖の大きさを物語る指標と言う方が正確です。

イギリスでは、自転車に乗るという選択自体が
リスク・テイキング行動と見做されているという事です。
ちょうど、ブルヴェ参加者が反射ヴェストを着るのと同じです。


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イギリスからオランダに移住して
オランダの優れたインフラのノウハウを英語で発信している
David Hembrow 氏は、これを
pit canaries(炭坑のカナリア)
に喩えています。

道路空間で特に弱い立場に有るサイクリストは、
炭坑で毒ガスが出た時に真っ先に反応するカナリアのように、
道路の危険に対して蛍光色のヴェストやヘルメットの着用で
敏感に反応するというわけです。

逆に、地味な普段着のまま自転車に乗る人が多いならば、
道路で感じる危険がそれだけ小さいという事です。
当然、オランダは後者です。


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小川氏は
いろいろな交通と一緒に道路をシェアしていくための大前提は、
お互いに敬意を払うことである。
と主張していますが、これは
〈持続可能な安全性(*1)〉の観点からも、
車から自転車への転換を促進するという観点からも、
間違った目標設定です。(少なくとも幹線道路の場合は。)

*1 Sustainable Safety (NL: Duurzaam Veilig)
オランダの道路設計の根幹を為す安全思想です。

「敬意(*2)を払う」必要が有るという事は、
ヒトが認知・判断・動作エラーを起こしたり、
理性を失って感情的な攻撃行動に出れば、
それが事故に直結してしまうという事です。
実際私も、車道を「シェア」していて
何度も車から危険な目に遭わされてきました。

*2 これ、respect の誤訳表現っぽいですね。
この文脈では「配慮」や「注意」じゃないかな?

そんな脆い安全しか保証されない環境では、
自転車のモーダルシェアは伸び悩むでしょう。
それどころか、ブームが去れば凋落してしまうかもしれません。 


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Share the road という掛け声は、
お上から与えられた道路を受け身的に使うだけの民草にとっては
分かりやすいスローガンかもしれませんが、長期的には
車の地位を再び頂点に返り咲かせるだけで終わる可能性が有ります。

責任ある市民として社会を改善したいなら、
単に一利用者としてではなく、システム全体を俯瞰して
何が最適解なのかを熟考すべきでしょう。将来の世代の為にもね。

分かりやすい標語に軽々しく飛び付いていては駄目です。