2014年7月23日水曜日

浅草通りの自転車歩行者道 (3)

自転車通行空間と言いながら、相変わらず段差だらけ



今回は細街路との交差点(信号無し)の様子を観察します。
左折車の助手席側の窓に注目してください。






左折車が自転車通行空間を完全に通過するまで
ドライバーの顔が全く見えていません。
通過時の車体の角度が
自転車通行空間に対して直角になっていないからです。

ドライバーは自転車を直接視認するのが困難で、
助手席側のドアミラーに頼らざるを得ない状況である事が分かります。
私は車を運転しないので分かりませんが、
ドライバーが自転車を見落とすリスクは高そうですね。

なお、直接目視とミラー越しの目視で認知エラー率が
どのように違うのか、ちょっと論文を検索してみたのですが、
出てくるのはドアミラーの空力特性の研究ばかりでした。


交差点の構造

歩道の縁石は交差点の手前から緩い曲線を描いて
細街路に繋がっています。実測はしていませんが、
ぱっと見、曲線半径は5mくらいは有りそうです。
一般的な乗用車の最小回転半径(但し、後ろの内輪基準)に比べて
かなり余裕が有ります(*)。

* 例えばトヨタ・プリウスの場合、
諸元表に記載された最小回転半径は5.5mですが、
トレッド(1.51m)とホイールベース(2.7m)から計算すると、
後ろの内輪の最小回転半径は約3.3mです。

この構造の所為で、
  • 左折車と自転車の動線の交差角度が鋭角になり、直接目視が困難
  • 左折車があまり速度を落とさずに左折できてしまう
という問題が生じています。

(上の写真の車は充分徐行して左折していましたが、
全てのドライバーがそれを毎回確実に実行できているわけではありません。
従ってこれは、ユーザーのエラーを素通りさせてしまうシステムの穴と言えます。)

信号制御されていない交差点での事故防止の基本は、
通過車両の速度を極力抑える事、
特に質量の大きい乗り物である車の速度を抑える事ですが、
浅草通りの構造はそれを全く考えてないですね。

また、左折する車が段差の無い同一平面を通過できるのに対し、
自転車が縁石の段差を乗り越えなければならない構造も不適切です。
単に自転車の乗り心地が悪くなるだけでなく、
本来速度を落とすべき車がそのまま通過できてしまうからです。


縁石の形状は改良された。しかし……

縁石は旧来のような角張った段差が無く、
なだらかな斜面で歩道に繋がる形状のものが採用されています。
確かに縁石に乗り上げる瞬間の衝撃は以前のタイプより緩和されています。

しかし、写真をよく見れば分かるように、
街渠と縁石が小さな谷を形成しており、
自転車で通過するとこの窪みの部分で上下動するので、
全体としてはまだまだ乗り心地が悪いままです。

「車道は同一平面で連続させ、歩道は分断する」
という発想を根本から改めるべきです。



で、改善イメージを作りました↓

現行の交差点構造(写真の場所とは別の、近くの交差点)

問題点をもう一度押さえておきます。
  • 左折車と自転車の動線が鋭角で交差する(認知エラーの要因)
  • 縁石のカーブが緩いので車が速度を落とさず進入できてしまう
  • 車は縁石を乗り越える必要が無いので速度を落とさず通過できてしまう

さらに、前回までの記事で指摘した問題も再確認。
  • 歩道全体の広さに比べて自転車通行空間が狭すぎる。
  • 交差点の周辺で自転車通行空間が一々途切れる。
  • 歩行者空間と自転車空間の視覚的・構造的な区別が曖昧で、
    歩行者が紛れ込んでくる。


改良デザインの鍵

設計上の要件:
  • 細街路に入る左折車が自転車の動線に差し掛かる時点で、
    自転車通行空間に対して直角になっている事が望ましい。
  • 縁石の曲線半径は、車が曲がれる範囲でできるだけ小さくしたい。
  • 細街路に入る左折車が幹線道路の後続車の動線を塞がないようにしたい
    2014年7月31日追記
  • 細街路から出てきて幹線道路に合流待機する車が
    自転車の動線を塞がないようにしたい(2014年7月31日追記
→ ピンク色の斜線で示した範囲まで縁石を張り出す。


実際に改良するとしたら例えばこう

歩道と自転車道を同一平面で連続させ、段差を完全に解消しています。
細街路に出入りする車は縁石を乗り越えなければならない構造です。
車との交差部分はボラードを配置し、車が歩道に進入できないようにしています。

縁石の曲線半径はできるだけ小さくし、車の速度を強制的に落とします。

2014年7月31日追記
縁石の張り出しで自転車道と車道の間に空間ができた事で、
細街路に出入りする車が、他の車や自転車の通行を妨げずに
待機できるようにしています(本当はもう2〜3mくらい欲しいですが)。

歩道と殆ど同じ色で区分が曖昧だった
自転車通行指定部分の舗装は赤く着色し、区別を明確化します。
交差点周辺での断絶も解消し、真に連続的な通行空間になりました。

さらに舗装材もタイルからアスファルトに変更。
【車両】の通行空間である事を歩行者に意識させます。
図では描いていませんが、歩道と自転車道の境界には更に
縁石で段差を付け、空間の区別を明確化します。

(要するに、【自歩道】から【歩道+自転車道】に転換したという事です。)


現行の道路構造(再掲)

それともう一点。現状の車道の第一通行帯は中途半端に広く、
走行空間なのか駐車空間なのか構造的に曖昧でした。
改善イメージではこれを駐車空間と走行空間にハッキリ分けています。


改良構造(再掲)

駐車空間は舗装をアスファルトからゴツゴツしたブロック敷きに変更。
これで、ここが走行空間ではなく駐車空間である事が明確になります。

2014年7月28日追記
なぜ駐車空間を構造で明示する必要が有るのか。
それは、駐(停)車して良い場所を明確化する事で、
それ以外の場所に停めてはならない事も同時に明確化するからです。

現在の日本の道路空間は、空間の用途を曖昧にしておくという、
悪い意味で日本的な設計ですね。(卓袱台、布団、六畳間……)
これが渋滞を引き起こす迷惑な路上駐車の一因なのかもしれません。

もし駐車空間と走行空間の区別を明確化するなら、
浅草通りだけでなく、国内の全ての幹線道路でも
統一的にやらないと効果が発揮されない予感がします。

細かい所では、駐車空間と自転車道の間に芝生の緩衝帯を追加しています。
ドアゾーンが自転車道を侵食しないようにする工夫です。
これは、車から降りた人が安全に滞留する為の空間でもあります。
緩衝帯が無いと「車から降りていきなり自転車道」という形になるので、
乗員と自転車が出会い頭衝突を起こすリスクが有ります。


さらに自転車道を拡幅

現行の構造では自転車通行指定部分が狭いので
自転車が歩行者空間に逃げる一因になっています。
歩行者と自転車の通行量比率に照らしても現行の配分比率は不公平です。

また、自転車通行空間内での対向自転車とのすれ違いも安全にできません。
subjective safety の面で評価が下がる一因です。

そこで、改善イメージでは植栽を撤去して空間を捻出し、
歩行者と自転車に空間を公平に再配分しました。
自転車道を双方向通行で運用するならこれくらいの幅員は欲しいですね。

自転車道が細街路と交差する部分の路面には矢印を描き、
ここを横切る車のドライバーに左右両方の安全確認を促しています。
勘違いされがちですが、これは自転車利用者に向けた標示ではありません。

なお、上の改善案では道路空間の緑化率が下がっていますが、
これについては車道の中央を潰して植樹帯に転換する事で、
今以上に緑豊かな空間にするという選択肢も有ります。

車道の大部分を緑地帯に転換

幹線道路としての位置付けを破棄し、
地区アクセス道路に格下げすれば充分可能です。



シリーズ記事一覧
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