2014年4月15日火曜日

Sustainable Safety って何だ?

オランダの自転車政策を調べていると
Sustainable Safety (Duurzaam veilig)
という言葉がよく出てきます。

Fred Wegman (2007) Advancing Sustainable safety, p.20

「持続する安全性」? どういう事だろう。



そこで、提唱者の SWOV(*)のプレゼンテーションを読んでみました。
* de Stichting Wetenschappelijk Onderzoek Verkeersveiligheid
(the Institute for Road Safety Research, オランダ道路交通安全研究所)

SWOV のフレッド・ヴェフモン(Fred Wegman)氏が
2007年に国連欧州経済委員会の第2回国際道路交通安全フォーラムで発表した、
Advancing Sustainable Safety という題のプレゼンテーションです。

全部で24ページ有りますが、
ここでは p.9 から p.21 を見ていきます。


pp.9-11(要約)
オランダでは70年代以降、道路の事故は減ってきたが、
まだまだ安全性の改善を続けたい:
防げたはずの事故を耐え忍ぶのは嫌だからだ。
それに、過去の成果が今後も保証されるとは限らない!!

今まではハイリスクグループ対策や
費用効率の高い対策をしてきたが、
これらは効果・効率が下がってきている。

パラダイムシフトが必要だ。

p.13
今日の道路交通は本質的に危険。
航空や鉄道のような、安全を念頭に置いたシステム設計に
なっておらず、人の振る舞いに大きく左右されてしまう。
そこでオランダが考えたのが "Sustainable Safety"

これには心から同感です。
もっと激しい言い方をするなら、
「今の道路システムは人が死ぬように作ってある」
とさえ言えるでしょう。

システム設計が鉄道と違うというのも大いに頷けます。

例えば日本の鉄道の場合、現在のATSに繋がる
打ち子式の自動停止装置が実用化されたのは1927年ですが、
自動車は今でも簡単に赤信号を突破できてしまいます。

信号を確実に守らせるという点で、
道路交通は鉄道より一世紀近くも遅れてますが、
なんで問題視されないんでしょうね。


p.14
Sustainable とは:
事故多発が避けられない現状の道路システムを
子供たちにそのまま渡したくないという事。

(Brundtland-report の
"sustainable development" に触発されて。)

ああ、それで "Sustainable" なのか。
流行に乗っちゃった系のネーミングだったんですね。
"Inherent Safety" の方が分かりやすかったような……。


p.15
Sustainable Safety の基本
  • 道路利用者を重視したシステム
  • 様々な分野の知見を結集: 運輸計画、交通工学、
    社会科学、生体工学、マネジメント、経済学
  • 「誰にとっても」安全なシステム

pp.16-17
SWOVが構築した安全思想。
1992年に展望をまとめ、1990年代中頃から実際に活用。
2005年に改訂(英語版を無料でダウンロード)。

Sustainable Safety の基本的な狙い
  • 事故を未然に防ぐ
  • もし起こってしまっても重大事故に至らないようにする

割と最近なんですね。
安全への飽くなき欲求と立ち止まらない姿勢が良く分かりますが、
現実の道路はまだまだ改修の手が回っていない所も多いでしょう。

それを知らずに古い構造基準で作られた危険な道路を視察して、
「これがオランダのインフラか! さすが世界一の自転車大国だ!」
とか勘違いするバカ学者やバカ議員が出そうで怖いです。

過去の関連記事
自転車レーンの改善は続く


p.18
「ヒトが万物の基準である(Man is the measure of all things)」
  • 物理的特性: 人体は弱い
  • 心理的特性: ヒトは間違いを犯しがちで、時には規則を破る

古代ギリシャの哲学者、プロタゴスの言葉を持ってきました。

後者の心理的特性は、当たり前なのに無視されがちな事ですね。
今から二千年も前にセネカ息子が "errare humanum est" って言ってるのに、
日本の道路交通の安全システムはその教訓をまるで活かしていません。

例えば事故調査がそうです。
航空や鉄道では再発の防止を目的とした事故調査委員会がいますが、
道路の事故では誰が悪かったのかを突き止める事しか考えてない警察が
現場を取り仕切っています。しかも捜査資料は非公開です。

ヒトが間違えるのは当たり前なんだから、
誰に過失が有ったか分かったところで将来の事故は防げないのに。


pp.19-20
エラーの発生をできるだけ早い段階で食い止める。
個々人の判断に左右されないようにする。

Fred Wegman (2007) Advancing Sustainable safety, p.20

チーズみたいですね。
リールダマル……、いや、マースダムの方が近いかな。

p.21
Sustainable Safety の基本原則
  • 機能性
  • 均一性
  • 予測可能性
  • 状態認識
  • 寛容性

発表時に口頭でかなり補足が有ったんでしょう。
これだけ見ていても分からないので別の冊子で補完します。

SWOV (2006) Advancing Sustainable Safety - in brief

p.3
機能性
道路の機能を一つに絞る事: 道路の階層に於ける
through-roads, distributor roads, access roads のどれか。

均一性
中〜高速域では、質量、速度、方向を均一にする事。

予測可能性
道路デザインに一貫性と連続性を持たせる事で、
道路環境や道路利用者の行動を予想と合致させる事。

状態認識
自身のタスク遂行力/*運転技術や疲労度*/を正確に判断する能力。

寛容性
間違いに対して道路構造/*や車体構造*/、他の道路利用者が寛容である事。

最後の二つは初版には無く、
2005年の改訂版で追加された原則です。

インフラが中心に思えますが、実際は
車や教育、取り締まりなども含んだ
包括的な政策指針のようです。