2014年2月9日日曜日

イギリスの偽オランダ式インフラ

ロンドンの北、約80kmにあるベッドフォード区で、
ラウンダバウトの不適切な改修計画が承認されました。



情報源
http://www.transportxtra.com/magazines/local_transport_today/news/?id=37123

来月にも改修工事が始まる予定のこのラウンダバウトは
同区の中でも特に自転車事故の発生が集中していた所です。

今回の改修計画は自転車の安全確保を課題の一つにしており、
工事資金の大部分がイギリス交通省の自転車安全基金から出ています。

改修の目玉は、ラウンダバウト内の車道を
樹脂製の分離帯で2車線に区分し、
車の通過速度を抑えるというものです。

現在のラウンダバウトの様子
Google Maps より)

完成予想図

樹脂製の分離工作物のイメージ

この構造はイギリスでは初のオランダ式〈ターボ・ラウンダバウト〉
(Dutch-style turbo-roundabout)になると言われていますが、
この構造は本来、大量の車を効率良く捌く為のものです。

オランダでこの種のラウンダバウトが採用されるのは自動車専用道路であり、
基本的に自転車や歩行者の通行は有りません(別の動線が用意されます)。

オランダ、オルミール・ハーフ(*)のターボ・ラウンダバウト。
歩行者と自転車は付近の立体交差で自動車道の下を潜るので、
ラウンダバウト内で車の流れと平面交差する必要は無い。
Google Maps より)

* Almere Haven.「アルミーア・ハーヴェ」とも表記できる。

詳しい解説はこちら
http://www.aviewfromthecyclepath.com/search/label/turbo-roundabouts


自転車や歩行者も通行する交差点の場合、
オランダで採用されるラウンダバウトは、車道が1車線のみで、
車の交通容量確保よりも車の速度抑制に重点が置かれます。

オランダ、アームスフォート(Amersfoort)のラウンダバウト
Google Maps より)

また、ラウンダバウトの外周には、車道から独立した
自転車道と歩道がそれぞれ設けられます。

通学や買い物で自転車に乗る子供、女性から、
休日の朝にトレーニングで走るローディーまで、
あらゆる利用者がこの自転車道を走っています。


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ここまでの要点をまとめます。

一口に Dutch-style(オランダ式)ラウンダバウトと言っても、
  • 車の交通容量を最優先する、自動車専用道路のラウンダバウト
  • 交通弱者の安全を最優先する、一般道路のラウンダバウト
の2種類が有る。

"Dutch"という形容詞が付いたからといって、
それが直ちに歩行者や自転車に優しいものであるとは限らない。

しかし、イギリス・ベッドフォード区は、
口先では自転車の安全を謳っておきながら、
実際には車優先のラウンダバウトを作ろうとしている。

このような改修に〈自転車安全基金〉を使うというのは
非常に悪質ですね。詐欺に近い行為だと思います。


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ベッドフォードのラウンダバウトの完成予想図をもう一度見てみましょう。

完成予想図

良く見ると、自転車はラウンダバウトの手前で
車道から歩道に誘導されています。

現状でもサイクリストはラウンダバウト内では危険な車道を避けて
歩道を通行しているそうですから、これでは現状追認に過ぎません。

一方、車道を通行する自転車については、
ベッドフォード区の歩行者・自転車係である
パトリック・リンウッド氏は、

“Even though you will be sharing the lane with vehicles I’m hoping that as a cyclist you will feel this is a safe roundabout and a comfortable experience because traffic is moving more slowly.”

「車の流れが遅くなるので、車道を車と共有する自転車でも
このラウンダバウトを安全・安心と感じてくれるようになると期待している。」

// TransportXtra紙の記事より

と楽観していますが、自信を持って車と混在通行できるのは、
健康な大人のサイクリストだけです。子供や老人、女性、
車に恐怖感を持っているサイクリストは切り捨てていますね。

これは、車から自転車へのモーダルシフトを促すという観点からは
致命的な失策です。

He said many cyclists were likely to cycle in the middle of the lanes. The lanes will be wide enough for a car, but not a lorry, to overtake a cyclist who is cycling close to the kerb or plastic lane divider.

氏は、多くのサイクリストが車線の中央を通行するだろうと言った。
車線幅は、自転車が縁石か樹脂製の分離工作物に寄って通行している場合、
乗用車が自転車を追い越すには充分だが、大型トラックの場合は不足する。

// TransportXtra紙の記事より

自転車が車線の中央に位置取りをして、
あたかも一台のクルマであるかのように走る事を vehicular cycling と言います。

これはアングロサクソン諸国で大きな影響力を持っている考え方で、
アメリカ各州の自転車安全運転マニュアルなどでも推奨されていますが、
これができるのは、やはり健康で体力の有る大人だけです。

しかも現実には、ドライバーが進路を妨害されたと感じて、
車を故意に自転車に追突させるなどの事件も発生しており、
到底安全とは言えません。

このラウンダバウトの場合、
空間的には自転車を追い越せる幅が有るのに
自転車が車線の中央に陣取る形になるので、
後続のドライバーがキレて危険な追い越しをする可能性が有りそうです。

また、昨年末の「悪夢の11月」の例を見れば、
トラックドライバーが強引な追い越しをして
自転車を轢き殺すという事態も充分想定できます。

Bedford is also improving conditions for pedestrians and less confident cyclists who do not want to use the roundabout. Zebra crossings will be installed on all four arms of the roundabout and the footpath around it will be widened and turned into a shared path for pedestrians and cyclists.

ベッドフォードは、歩行者や、/*車道走行に*/ あまり自信が無く、
ラウンダバウト /* の車道部分 */ を使いたくないサイクリストに対する
通行環境も改善しようとしている。ラウンダバウト出入り口の
4本全ての足にゼブラが引かれる他、周囲の歩道も拡幅されて
自転車と歩行者の共用通路にされる予定だ。

// TransportXtra紙の記事より

今までゼブラが無かったという事実にも驚愕ですが、
自転車を歩道に上げてしまおうという時代遅れっぷりにも
開いた口が塞がりません。1970年頃の日本を彷彿とさせます。

The new roundabout design is expected to maintain vehicle capacity.
新しいラウンダバウトの構造は、車の交通容量を維持できると予想されている。

// TransportXtra紙の記事より

結局これかよ!


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さて、日本でも将来、郊外を中心にラウンダバウトが
普及していく事が予想できます。昨年末の道交法改正でも
ラウンダバウトに関する規定が盛り込まれていました。

しかし、こうしたイギリスの事例を見るにつけ、
日本でも自転車や歩行者の安全性を二の次にした
悪質な設計が横行する可能性が有ります。

特に地方在住の自転車乗りの人は
行政の動きに目を光らせておくべきでしょう。