2014年2月21日金曜日

「お車は自転車レーンに停められます」騒動

イギリス、ノース・ヨークシャーのとある洋品店が、車での来店客向けに
「自転車レーンへの駐車は許可されています」という看板を出した事で、
批判が巻き起こりました。(2014年1月20日の road.cc の記事より)

しかしこの騒動、背景には色々と複雑な事情が有ったようです。



road.cc の記事を元に事実関係を整理します。

  • ハロゲイトの住宅街に立地する洋品店が、来店客向けに
    「自転車レーンへの駐車は許可されています」という看板を出した。
  • それを見た或る人が Twitter で店主に本当かと問い合わせた。
  • 店主は「本当です。町議会と警察の確認を取りました」と回答。
  • しかしこれはイギリスの道路交通法に反している(*1)と反論される。
  • 後に、店側は看板を撤去し、客にはレーン内に駐車しないように案内。
  • 警察も、店に誤った法解釈を示した事について謝罪文を表明。

これだけを見れば警察と店が悪者で
自転車が割を食ったという構図に見えます。

*1 イギリスの道路交通法(The Highway Code)140条より
Cycle lanes. These are shown by road markings and signs. You MUST NOT drive or park in a cycle lane marked by a solid white line during its times of operation. Do not drive or park in a cycle lane marked by a broken white line unless it is unavoidable. You MUST NOT park in any cycle lane whilst waiting restrictions apply.

しかし、同記事に寄せられたコメントからは、
そうした単純な見方ではこの騒動の本質を摑めていない事が分かります。

洋品店のすぐ近所に住んでいるという読者、
mikeprytherch 氏からのコメントによれば、

店は今まで長い間(*2)商売をしてきて、
来店客も店の前の道路の端に車を停めてきた。
それが、あるとき突然、町議会が勝手に自転車レーンを引いてしまった。

店主は自転車レーンが引かれる事を聞かされていなかったが、
来店客が今まで通り駐車できるかどうか、
町議会と警察に確認したところ、OKだった。

という事で、店としては純粋に顧客の利益を考えて、
自転車レーンの出現という事態に適切に対処したと言えます。
問題なのは寧ろ、商業活動への影響を考えずに
「とりあえず自転車レーンを引いておけ」と
インフラ整備に走った町議会ですね。

*2 店主の釈明文によれば13年間。

なぜ自転車レーンが性急に整備されたのか
という点について、HarrogateSpa 氏は

ハロゲイトは2014年のツール・ド・フランスの
第1ステージでゴールに設定されている町。
町議会は「ツール開催地として、自転車インフラという
将来への財産(*3)を持つ事はとても重要だ」と
公式な報告書で述べているが、
町議会は自転車の事を良く分かっていないようだ。

ハロゲイトという町は規模が小さく、
自転車での移動には適しているが、
今の所は自転車インフラが無く、
町の道路は信じられないくらい車に支配されている。

と、町の姿勢を批判しています。
町は深く考えもせずに見栄だけ張ろうとしたようですね。

これ、2020年のオリンピックを受け入れる東京としても
ひと事ではありません。新都知事の舛添氏は選挙戦の始めから
自転車インフラの整備に意欲を示してきましたが、
ハロゲイトの二の舞にならないかと心配です。

*3 原文は "legacy" で、直訳すれば「遺産」です。
東京オリンピック絡みの話題でも出てくる言葉ですが、
どうにも語感がしっくり来ないので「将来への財産」と訳しました。
ちなみにコメント投稿者の HarrogateSpa 氏も、町議会が
どういう意味で "legacy" と言っているのか分からないそうです。

さて、最後にそのお店の前の道路を Street View で見てみましょう。
自転車レーンが整備される前、2012年5月に撮影されたものです。

Google Street View より
(レベルカーブ補正を施した)

あれ? 結構広い。
車道と歩道を合わせた道路全体の幅員はかなり広いです。
これなら自転車レーンに加えて駐車枠も作れそうですね。
駐車枠は道路の片側だけになりそうですが。

Google Street View より
(レベルカーブ補正を施した)

予算さえ掛ければ構造分離型の自転車レーン
(蘭 fietspad; 英 cycle track)を作れそうです。

そうすればサイクリストはレーンを車に塞がれないし、
車での来店客も駐車場所に困らなかったのに。

なんでペイントレーンに逃げちゃったかなあ。