2013年11月26日火曜日

一番大切なのはインフラ整備

自転車の利用を促進するのに一番効く政策は、
他でもない、良質なインフラの整備です。



オランダに移住したイギリス人が各国の事例を見渡した上で
望ましい自転車政策について発信しているブログが有ります。

書き手の David Hembrow 氏は最近、
移住から6年が経つのを機に、
以前住んでいたイギリスの街を訪れて、
自転車インフラがどれだけ進歩したのか、
オランダと比較しながら報告する記事を発表しています。

以下に紹介するのはそのシリーズ記事の一つで、
冒頭部分からの抜粋です。


2013年11月22日
Has Assen progressed over the last six years ?

Why concentrate on Infrastructure ?
なぜインフラに注力すべきなのか?

I've said it before and I'll no doubt say it again, but building a high cycling modal share is all about infrastructure. Whatever demographic group you have, the potential for cycling is maximised by having infrastructure which makes the most of whatever potential that group of people has with regard to cycling.

これまでも言ってきたし、今後も間違いなく繰り返すだろうが、
交通手段としての自転車のシェアが上がるかどうかは、
ひとえにインフラの良し悪しに懸かっている。
どのような人口構成の地域でも、インフラ整備によって
潜在的な自転車人口は最大化される。

Student cities are always likely to be able to achieve a higher cycling modal share, while areas with a high proportion of immigrants from non-cycling nations will likely achieve a lower modal share, but in the Netherlands all demographic groups cycle more than they would if they lived in another country.

学生街では大抵、高い自転車利用率の実現が期待できる。
一方、自転車文化が無い国から来た移民が多い地域では、
低い利用率しか望めない。ところがオランダでは
全ての人口グループが、他の国で暮らしていた場合に
考えられる率よりも高い割合で自転車に乗っている。

Even many Dutch cycling experts greatly overestimate "being Dutch" as a reason the Dutch cycle. Typically they are unaware of how much of an effect the infrastructure and resulting safe environment for cycling in this country has on immigrants from countries with low cycling modal shares. If considered as if they were separate countries, immigrant groups in the Netherlands would be amongst the highest cycling nations on earth. Conversely, Dutch people who emigrate usually stop cycling.

オランダでは自転車に詳しい人でさえ、オランダ人が自転車に乗る理由を
「オランダ人だから」と片付けてしまいがちだ。彼らは、
この国のインフラと、それによって得られる安全な自転車環境が、
自転車利用率の低い国から来た移民に対して
どれほど大きな効果を持っているかに気付いていない。
仮に、オランダに来た移民のグループを一つの国と見做せば、
その国は自転車利用率が世界で最も高い国の仲間入りをするだろう。逆に、
オランダから他国に移住した人々は、大抵、自転車に乗るのを止めてしまう。

No amount of PR and marketing is equivalent to one metre of decent cycling infrastructure. None of that changes how people feel about getting onto a bike. If you want to build cycling in your nation, build top quality infrastructure which makes cycling into a subjectively safe means of transport.

どれだけのPRや宣伝も、1メートルの適切な自転車インフラには及ばない。
PRだけでは、自転車に乗る事に対して人々がどう感じるかを変えられない。
もし自分の国で自転車を普及させたいなら、最高のインフラを整備して、
自転車を主観的にも安全な交通手段に変身させる事だ。

オランダ人が自転車に乗るのは、
質の高い自転車インフラが有るからに他ならない
という主張です。


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日本でも近年、自転車レーンが増えてきましたが、
幅員が狭すぎて横スレスレを車が追い越していったり、
路上駐車に塞がれてしまうというのが実態で、
利用率は低迷し、相変わらず自転車の歩道走行が続いています。

またロンドンでは、自転車レーンの青いペイントが
サイクリストに誤った安心感を与え、
今年に入ってから交差点での死亡事故が続発しています。
(まるで1978年の日本のような状況ですね。)

どちらの国でもドライバーのモラルは向上せず、
サイクリストには交通安全の知識が浸透していません。

インフラをケチった分、教育や取り締まりで
埋め合わせをしようとする姿勢は
根本的に間違っていると思います。
やはり、質の高い自転車インフラは必要です。

ただ、ここでちょっと考えてみましょう。
私たち日本人は、自転車インフラの良し悪しを
判断できるだけの鑑識眼を持っているのでしょうか。


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氏のブログには他にもたくさん興味深い記事が載っています。
例えば次の記事では、日本では自転車先進国とされるデンマークの
自転車インフラについて、問題点を指摘しています。


2010年7月12日
The "Copenhagen Left" and merging of cyclists with cars turning right: Dangerous and inconvenient junction design in Denmark.
「コペンハーゲン・レフト(二段階右折)」、そして自転車と右折車の混合:
危険で不便なデンマークの交差点設計
Don't copy Denmark
デンマークを真似するな


Conditions in Denmark are not the worst in the world. Danish infrastructure is often better than much of what you find in Germany and of course it is better than what you usually find in other countries which have far lower cycling rates. However, Danish infrastructure is far from ideal. Denmark not invested enough to support the cycling modal share that they once had and the result has been twenty years of decline in cycling in Denmark. Is a declining cycling modal share the future you want to see ? If not, don't copy Denmark !

デンマークの状況は世界最悪ではない。デンマークのインフラは
多くの場合、ドイツで目にするものよりは優れているし、
当然、その他の自転車利用率が遥かに低い国よりは優れている。
しかし、デンマークのインフラは理想には程遠い。デンマークは
自転車の利用率を下支えする為の充分な投資をして来なかった。
その結果、デンマークでは過去20年間、自転車利用率が低下している。
自転車利用率が下がる未来を見たいのか?
見たくないならデンマークの真似はするな!

(具体的な問題点は引用元のページに詳しく書かれているので
そちらを参照してください。図解や動画も有ります。)


日本では、コペンハーゲンもアムステルダムも、
ニューヨークもロンドンも、全部一緒くたにして
「自転車先進都市」と見做す風潮が有ります。

しかし、上で紹介したブログの記事を何本か読むと、
どうやら各国・各都市のインフラのレベルには
非常に大きな開きが有るようです。

例えばこんな風に、

オランダ >>>>>>>>> デンマーク >>>>>>>> ドイツ >>>>>>>>> イギリス

図式化できるかもしれません。

(不等号の数は2008年の『Transport Reviews』誌に掲載された論文
を参考にしています。論文の p.498, PDF p.5 に載っている図では、
欧米各国のトリップ全体に占める自転車の割合が比較されていて、
オランダがぶっちぎりの一位です。二位以下を大きく引き離していますね。
一方イギリスは、アメリカ、オーストラリアと並んで最下位です。)


 欧米人はプレゼンテーションが上手いので、日本人が見ると
どの都市のインフラ整備事例もこの上なく素晴らしい物に
見えてしまうかもしれませんが、現実は全く違うようです。

今後は、
「先進国」のやっている事だから間違い無い
と思考停止せず、各国のインフラの安全性・利便性の水準を
鋭く見定めていく必要が有りそうです。