2013年11月17日日曜日

霞ヶ関の自転車レーン

2015年11月6日 加筆・訂正

路上駐車の横を走る自転車

日比谷公園と東京地検の間を走る都道301号。写真は弁護士会館前です。
こんな道路のどこに自転車レーンが……



有った!

路上駐車で隠れていますが、隙間から自転車レーンが覗いています。
どこから始まって、どこまで続いてるんでしょうか。


西幸門前交差点

西幸門前交差点から見た内堀通り方面

日比谷公園の南西角に当たる交差点まで来ました。車道の左端に半端な幅の余白(停車帯?)が有りますが、自転車レーンの標識は立っていません。時間帯によっては客待ちタクシーがびっしりと貼り付く場所ですね。西幸門前交差点より南側はこのような余白も無く、自転車レーンも見当たりません。


霞門交差点

霞門交差点から見た内堀通り方面

通りを北上して環境省の横まで来ました。まだ自転車レーンの標識は有りません。


霞門交差点の手前に「自転車通行可ここまで」の標識

良く見ると歩道上に自転車歩行者道(自歩道)の終端を示す標識が有ります。


霞門交差点

法的には、この交差点から先は車道通行が原則ですが、自転車の通行を阻むように路上駐車が集中的に発生しています。弁護士会館への来訪者の車でしょうか。ちゃんと敷地内に駐車場や車寄せが有るんですが……。


弁護士会館前のタクシー乗り場
(一つ上の写真とは別の日に撮影。この日は路上駐車が無かった。)

タクシー乗り場のベイを過ぎるまでは自転車レーンではないようです。


タクシー乗り場の直後に「自転車専用ここから」の標識

そして唐突に自転車レーンが始まります。


自転車レーンの始端部

路面標示からは、ここまでは歩道上を通行させる意図が読み取れます。何で交差点からここまでの区間は自歩道指定されてないんでしょうね。

歩道から車道への流入部の手前には街路樹が有り、死角ができています。歩道から飛び出てきた自転車と、車道の端を走ってきた自転車(またはバイク)が出会い頭衝突しやすい構造ですね。


路上駐車の合間に見えるピクトグラムさん

自転車レーン整備区間は路上駐車の集中発生区間でもあります。
(曜日や時間帯によっては1台も停まっていない場合も有ります。)


検察庁前の路上駐車

現実には駐車空間にされている自転車レーン

いま日本では、安価で導入できる自転車インフラとして、路上にペイントするだけの自転車レーンが大いに持て囃されています。今年9月末に東京弁護士会が開催したシンポジウムでもそういう発言が有りました。

シンポジウム「自転車の公共政策を斬る」の感想 (2)

木内秀行氏(弁護士)
先ほど疋田さんや小泉さんからも有ったように、自転車レーンの方が敷設が容易で費用が掛からない。で、費用を掛けずに自転車の走行空間を確保して、そして安全な自転車走行を促進する。これがまさに自転車レーンの良い所であって、「自転車道を設けなきゃなんない、あーお金が掛かる」だから逆に自転車の走行空間の促進が阻害されるという事で、自転車道を造る事に汲々として自転車走行空間を確保する事が疎かになる。こんな事だったら、現実的な自転車レーンの方がずっと良いですよ。費用が安くて敷設がしやすい。

そうは言いますが、単なるペイントでは有効に機能する自転車走行空間は確保されないというのが現実です。

自転車レーン推進派の人々は、路上駐車の問題は
  • 取り締まりの強化
  • ドライバーのモラル向上
で解決できると信じているようですが、管轄の丸の内警察署は滅多に巡回に来ません。

(一般人が路駐車両を撮影して通報、というアイディアも出されていますが、警察はそうした証拠を、画像の改変可能性を理由に棄却します。それを言うなら警察官の現認だって客観性を欠いてますけどね。)

この自転車レーンが設置されているのは、

東京簡易裁判所や東京地方裁判所、

公正取引委員会や検察庁

といった堅い組織が並ぶ場所ですが、自転車レーン上への路上駐車は誰からも咎められません。

違法ではないのかと思って関連法を調べると、

道路交通法47条1項
車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
こう書かれています。一応、適法なのかな?

しかし、これらの施設が自転車レーンを尊重しているなら、車での来訪者には必ず駐車場を利用させるとか、車での来訪自体を自粛させるといった策を取るはずです。すぐ近くに地下鉄駅も有り、決して無理な注文ではありません。


弁護士会館前に発生している路上駐車

「自転車レーンの方がずっと良い」という発言に我が意を得たりと沸いていた会場のまさにその足元で、自転車レーンの機能不全が実証されていたという構図です。

実際ロンドンでは、車道の端を帯状に青くペイントしただけのサイクル・スーパーハイウェイが悉く路駐に塞がれており、今年に入ってからは死亡事故も続発したため、縁石で分離された自転車道に作り替える動きが出ています。


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さて、本題に戻って、自転車レーンの先はどうなっているでしょうか。

検察庁の横

自転車レーンの終端部

この日は下水道工事で塞がっていましたが、そのまま前方の交差点まで
自転車レーンを確保できそうな幅員が続いています(第1通行帯の幅員が1.5車線分くらい有ります)。なぜこんな中途半端な位置で自転車を歩道に上げるのかは、この先で分かります。


段差の無い縁石

鋭角に乗り上げても転倒しないように特殊な縁石が用いられています。しかし、車道から進入する自転車が歩道上を走ってきた自転車(普通にいます)や歩行者と出会い頭衝突を起こすリスクが有りますね。


祝田橋交差点(Google Maps, 35.676755,139.755836

さて、自転車が唐突に歩道に上げられた先には祝田橋交差点が控えています。


祝田橋交差点を北向きに直進する車両の動線
(Google Maps の写真を加工)

仮に自転車が車道の左端から直進すると交差点の先で第3通行帯に入ってしまいます。第1、第2通行帯は、交差する内堀通りからの2本の左折レーンがそのまま繋がったものです。


交差点の南西の角から見た車の流れ

それでも、交差点を渡り切った所で第1通行帯に移れば良いのでは、と思って、交差点の角から車の流れを観察してみました。


青信号に変わると同時に、左手からも左折車が流れ出す。

えええええ! これじゃ駄目じゃん!

そのまま進むのはとても危険そうですね。では、途中の中洲(導流帯)で待機したらどうなるでしょうか。


都道301号側の信号はすぐに黄色に変わります。

都道301号側が赤信号に変わっても左手からの車は流れ続ける。

むむ、これは。


そうこうしている内に対向右折車が流れ始める。

この後、交差方向の横断歩道のボタンが押されれば、内堀通りからの左折レーンは赤信号(同直進レーンは青信号)になって自転車の進路が開かれますが、歩行者が来ないと左折レーンはいつまでも青のままなので、

詰みます。

(尤も、歩行者がいないような時間帯では車も少ないでしょうし、最悪、交差点の直進を諦めて内堀通りを銀座方面に右折すれば脱出できますが。)

ただ、交差点を直進できたとしても、都道301号の祝田橋より北の区間は車の速度が高く、車道の左端にも余白が全く無い箇所が多いので、車との十分な安全マージン(側方間隔)が確保できません。

さらに、この区間では車から攻撃的な運転(煽りや追い越し)をされる事が多い気がします。全体的にドライバーがピリピリしている印象を受けます。

こんな状況ですから、自転車での車道通行はよほど剛胆な人でないと無理です。


---


今度は交差点で折り返して反対方向、南向きの通行環境を見てみます。

祝田橋交差点

祝田橋交差点から見た都道301号の弁護士会館方面

東京都では自転車横断帯の撤去が進んでいますが、この交差点では温存されています。この交差点に至るまでの道路がいずれも自転車に歩道通行させる前提で設計されている事が原因でしょう。


大手門交差点

大手門交差点(パレスホテル横)の自転車歩行者道

祝田橋交差点から 1 km ほど北の歩道(東側)です。歩道上に自転車通行帯が設けられています。しかし歩行者空間も自転車空間も色調・舗装材がほとんど同じなので、歩行者にはそこが自転車通行空間だと分かりにくいと思います。

とはいえ、車道は交通量、速度、ドライバーのイラつき度合いと三拍子揃って高水準なので、それに比べればだいぶマシですが。

(2013年11月の記事公開時はここで、自転車歩行者道の整備を続けようとする東京都の方針は間違っていると批判しましたが、その後、利用者の体感上の安全性が重要な要素だと気付いたので、この2年間で私の意見は135度くらい変わっています。)



祝田橋交差点に戻ります。

祝田橋交差点の直後から始まる自転車レーン

交差点から南側は交通量がぐっと減ります。車道の端にも余裕が生まれ、自転車レーンが始まっています。


車が通行できる車線は2車線

片側 2.5 車線とでも言うべき車道ですが、大型車に路上駐車されると、機能上は 1.5 車線が塞がったのと同じで、車にとっては実質1車線です。

ただ、これでも渋滞は起こっていません。私が見た限りでは、交通量の実態に対して道路の容量が過剰に思えます。


自転車レーンを塞ぐトラック

ここも「自転車レーン」は名ばかりで機能していません。ところが路駐トラックの先には、


トラックの先の区間に並べられた三角コーン

丸の内警察署の三角コーンがずらっと並んでいました。ここまでやらないと路上駐車を防げないというのが現実なんですね。ただ、駐車禁止は時間帯限定なので、許可時間帯になるとコーンが片付けられてしまうのかもしれません。


狭い

三角コーンが通行帯区分線よりも外側に置かれ、自転車レーンを大きく侵蝕しています。レーン内での自転車同士の追い越しは無理。1台で通るだけでも心理的にはギリギリです。自転車の通行空間を確保する為というより、単に路上駐車を防げれば良いという感じですね。

一方アメリカでは、警察ではなく利用者が、自転車レーンが路上駐車に塞がれないようにと自発的に三角コーンを置いたり、




さらにそこへ花を挿したりする活動をしています。


コーンの置き方一つにも、設置者の価値観の違いがはっきりと見て取れますね。


数々の障害

路上駐車のトラックのタイヤに荒らされたのか、路面がボコボコになっている箇所が有ります。

街渠とアスファルトの境目の段差は、この道路ではそれほど酷くありません。グレーチングも目の細かい新型が採用されているようです。

ただ、他の道路で痛い目に遭ったサイクリストはこの種のハザードに神経質になっていて、街渠部分は通行空間とは見做しませんから、心理的な有効幅員はとても狭いです。

(参考までに、フランス内務省公式のSécurité routièreというサイトに自転車の交通安全のルールを解説したページが有りますが、その中の Les règles élementaires de sécurité(基本的な安全ルール)には、
Circulez sur le côté droit de la chaussée, à environ 1 mètre du trottoir et des voitures en stationnement.
(車道の右端に沿って、歩道〔の端〕や駐車車両から1mくらいの間隔を空けて通行してください。)
と書かれています。)


大まかな幅員構成

画像上でピクセル数を計ってみました。通行帯区分線の幅は 150 mm なので、それを基準に換算すると幅員は大体 1.5 m くらいでしょう。(縁石から区分線中心まで)

ここから街渠と三角コーンを除くと40cmくらいしか残りません。自転車のハンドル幅より狭いですね。


三角コーンが無くなった途端に発生する路上駐車

路上駐車が進路を塞いでいるので車道中心側に回避する必要が有ります。車にとっては左端の1.5車線分は機能的に死んでいるので後続車に追突されるリスクは小さいと思いますが(バイクは?)、横断歩道の直前に死角ができてしまっていますね。

画面左手(日比谷公園側)の歩道はどうなっているかというと、

日比谷公園側の歩道

歩道は左右から木々に覆われ、昼間でも薄暗いです。幅員は 2.5 m 程度。歩行者と自転車を共存させるには狭いです。これでは、視覚・聴覚障害者や老人、子供を連れた親にとって自転車は脅威になるでしょう。

すぐ横の車道空間は交通量に対して過剰なので、その一部を自転車専用空間に転用した方が良いと思います。

(記事公開当初はここに、歩道は歩行者の聖域なので絶対に自転車を走らせるべきではないと書いていましたが、これは文脈や事情を無視した原理主義的な主張ですね。今の私はもう少し緩い見方をしています。)


霞門交差点から見た経済産業省方面

さらに先に進みます。


日比谷公園側のタクシー乗り場

霞門交差点から先は「自転車専用」の標示が有りません。三角コーンも無くなり、再び路上駐車の集中発生区間に入ります。