2013年8月18日日曜日

岡山の自転車道——交差点とバス停の構造

自転車道の整備を求める法律が制定(1970年)されてから
35年も経ってようやく黎明期というのもおかしな話ですが、
2005年、岡山では亀戸(東京)に先んじて自転車道が整備されました。

前回の記事では幅員に注目しましたが、
今回は交差点・バス停付近の構造を見ていきます。

その稚拙な構造を見ると、設計者の頭の中には
「自転車は歩道を走るもの」という観念が
まだまだ根強く残っている事が窺えます。



岡山では、岡山駅前から岡山大方面へ自転車通行空間が整備されています。
その内、岡山駅前から清心町交差点までは西口筋、
清心町交差点から津島交差点までは岡山街道(国道53号)です。

自転車通行空間の構造は全区間を通して一様というわけではなく、

  • 区間1 岡山駅前から清心町交差点まで
  • 区間2 清心町交差点から運動公園交差点まで
  • 区間3 運動公園交差点から岡山大入口交差点まで
  • 区間4 岡山大入口交差点から津島交差点まで

の4種類に分類できます。


これらの4区間は完全に連続しているわけではなく、
大きな交差点(清心町や岡山大入口)の手前では、
数メートルから百数十メートルに亘って完全に途切れています。



1. 交差点付近の構造

冒頭で「交差点の構造を見る」と書きましたが、
岡山では、そもそも大型の交差点付近では設計の努力を放棄して、
自転車道を作らないという最悪の逃げをやらかしてますので、
評価のしようがありません。

交差点での設計例が見られるのは
信号機の無い小規模な交差点のみです。

区間1の交差点(信号有り)

自転車が3台ほど写っていますが、
3台とも歩道を走るようですね……。

横断歩道の直前で自転車道が途切れ、歩道と一体化しています。
歩行者の待機スペースにもろに自転車の動線が突っ込む形ですね。

視覚障害者用のブロックは画面右上の歩行者用信号の直下ではなく、
その先の自転車道の延長線上まで延びています。これは駄目です。

「自転車は歩道を走るもの」という長年の思い込みで
支離滅裂な設計になってしまったのでしょう。

自転車道も「車両」が通行する「車道」の一種なのですから、
歩道と自転車道は最後まで縁石でハッキリと分け、
歩行者の待機位置を歩行者用信号の直下まで後退させて、
自転車道の上にもしっかりとゼブラを引くのが正解です。

或いは、自転車道と車道の間に広め(2~3m幅)の緩衝帯を設け、
そこを歩行者の信号待ちスペースにするのも有りです。
(自転車道部分にもゼブラを引くが、信号は無し。)
この場合は歩行者の横断時間を短縮できるので、交通容量を増やせます。

参考に、オランダの事例を見てみましょう。


オランダ・アームスフォートの環状交差点

ロータリーの手前で自転車レーン(赤)が左右に離れ、
車道との間に緩衝帯が置かれます。

車道の上下線の間にも小さな緩衝帯が置かれ、
通過車両の速度を抑制しています。



オランダ・アームスフォートの環状交差点 

歩行者は自転車道、車道、車道、自転車道の順に渡る事になります。
緩衝帯が有るので、一ヶ所あたりのゼブラはかなり短いですね。

途中に緩衝帯が有る事で、歩行者は焦らずに横断できますし、
安全確認も分散できます。



オランダ・アームスフォートの環状交差点

自転車道の上にもしっかりとゼブラが引かれています。




岡山に戻ります。

区間1の交差点(信号無し)

歩道との分離はできていますが、
交差する車道の路面上に何も描かれていません。
そこが自転車の通行空間であると分かるようにペイントした方が、
裏道に出入りするドライバーの注意を促せます。



区間2の交差点(信号有り)

国体町交差点です。歩道上の画面右に赤く見える部分が自転車道ですが、
ちょうどゼブラが始まる手前で途切れています。
ここでも自転車道の延長線上に信号待ちの歩行者が立つ構造です。

賢い自転車利用者は交差点部も直線的に走り抜けられるように、
一貫して歩道の民地寄りを通行する事でしょう。
これもまた、自転車道の利用率を下げる一因と考えられます。



区間3の交差点(信号無し)

歩道と自転車道は単路部では縁石で区分されていますが、交差点付近では歩道と一体化しています。

歩道と一体化した以上、視覚障害者のために
車道との境界に段差を設けなくてはならないので、
自転車にとっては無駄に乗り心地が悪くなる構造と言えるでしょう。

自転車での移動距離が500m程度なら別に問題有りませんが、
通勤・通学で10km, 20kmと漕ぐ場合は、この段差の衝撃が
地味に蓄積していって、最後には軽い脳震盪になります(東京での実体験)。

これは近距離〜中距離移動を車から自転車にシフトさせる上での障害になります。



区間3の交差点(信号無し)

上と同じ交差点。この場所は交差する車道上に
白線と自転車のピクトグラムが描かれています。
これは区間1の交差点より良いですね。



2. バス停付近の構造

区間1のバス停

タクシーが止まっている所がバス停です。

自転車道を直線的に通し、バスの待合所は歩道上に置くタイプ。
バスの乗客は歩道上で待ち、バスが来たら自転車道を横断します。
(現地に行った事が無いので、本当にそう使われているかは不明。)

自転車の直進性を確保しつつ、バス待ちの歩行者の安全も確保できる、
そこそこ良い構造です。

問題は、バスを降りたらいきなり自転車道という点で、
降車客と自転車が出会い頭衝突を起こすリスクが有ります。
また、写真のようにタクシーが止まった場合は、
ドアが急に開くと自転車に衝突するリスクが有ります。

それから、バス乗客が横断する部分の自転車道に
ゼブラが引かれていないのがちょっと残念です。
「自転車は歩行者に毛の生えたようなもの」という
誤った認識から生まれたミスと言えるでしょう。



区間1の単路部分

区間1の単路部分

バス停のついでに、路上駐車と自転車道の関係も見ておきましょう。

西口筋は商店街なので、写真のように路上駐車需要が存在します。
しかし、自転車道は車道から物理的に区分されているので、
路駐に塞がれてしまう事はありません。これは中々良いです。

問題は上と同じく、ドアゾーンが自転車の動線上に重なっている事。
また、2枚目の写真のようなファミリーカーの場合は、危険を知らない
幼い子供がスライドドアから飛び出してくる事も考えられるでしょう。

これも解決法は上と同じで、
自転車道と車道の間に緩衝帯を設ける事です。



緩衝帯にはまた、路上駐車の駐車位置をコントロールする機能も有ります。

一部のドライバーは交差点や横断歩道の直近など、
不適切な位置に車を停めてしまう事が有りますが、
緩衝帯をくり抜いて駐車枠にする形式なら、
停めてほしくない所には駐車枠を設けないという対抗手段が取れます。

緩衝帯をくり抜いた駐車枠の例
(オランダのアームスフォート)

画面左下は民家の駐車場入口で、
駐車を防ぐ為に緩衝帯が本来の幅まで張り出しています。
ちなみにこの道路は、向かって左から
歩道—緩衝帯—車道—緩衝帯—自転車道—歩道
という構成。自転車道は双方向通行です。



再び岡山。

区間2のバス停

路面の色と縁石で歩道と区分されていた自転車道が
バス停の手前で歩道の中へと消えています。

車道の車の流れを妨げないようにバスベイを作ったら、
歩道側のスペースが足りなくなって設計に無理が出たんでしょうか。
どうも、設計者が途中で思考停止に陥ったように見えます。

もし歩行者が少ないのであれば、
歩道を大胆に縮小してバス停を民地寄りに移し、
自転車道を写真のバス停の位置に通してしまう設計も有りでしょう。



区間2のバス停

完成当初は、バス停手前で民地寄りにハンドルを切った自転車が
自転車道に戻らず、そのまま歩道上を走ってしまっていました。

その後、自転車を誘導する路面標示が追加されましたが、
本質的な解決法ではありません。構造が根本から駄目です。

設計ノウハウの蓄積が全然無いんですね。
30年以上も自転車政策を先送りしてきたツケです。



区間3のバス停

ここも全く同じ問題が生じています。



区間3のバス停

それにしても後付けの路面標示ってのは美しくないですね。



区間3のバス停

この箇所では、自転車道からバス停の裏側へと進む動線上に
街灯の柱が突っ立ってます。また、柱の右側を通る自転車は
縁石の段差を斜めに通過する事になります。

こうした段差を鋭角で通過すると転倒事故の原因になりますし、
鈍角で通過すると車道の方へ飛び出してしまいそうですね。

当初は自転車を柱の左側に通せば良いと考えたようですが、
実際に作ってみるとその狭い隙間を避ける自転車が続出したのでしょう。
結果、不安全な妥協策に流れてしまっています。



区間3のバス停

同じバス停の反対側のアプローチ。
こちらは修正しようにも、もう動かせません。



区間4のバス停

この区間は自転車道ではなく自転車歩行者道での整備です。
(正確に言えばここまでの区間も法的に有効な「自転車道」ではありません。)

バス停の手前で斜めの破線により、自転車を誘導しています。



区間4のバス停

区間4に入って二つ目のバス停。バスベイのくり抜き幅は控えめですが、
自転車を誘導する破線はかなりの急角度です。



区間4のバス停

三つ目のバス停。ここもグダグダな設計です。
これではもう単に広い歩道と変わりませんね。



参考に、オランダのバス停を見てみましょう。


オランダ・アームスフォートのバス停



画面右から


一般レーン — バスレーン — 緩衝帯・バス停 — 自転車道 — 歩道


という構成です。

この通りはかなり空間にゆとりが有るので、
バス停部分だけバスベイをくり抜くのではなく、
バスレーンを一本どーんと通しています。
自転車道もケチ臭い屈曲が一切無く、まっすぐ快適に走れますね。

バスレーンが確保できないような狭い道ではどうでしょうか。

オランダ・フローニゲンのバス停

この道は全体の幅自体はかなり広いのですが、
中央が広大な分離帯で、車道は上下それぞれ1車線だけ。
それに緩衝帯と自転車道、歩道が付いています。
バス停は緩衝帯の上に設けられています。

バスの乗客が乗り降りしている間、
後続車は待つ以外に有りません。凄い割り切りですね。
バス、自転車、歩行者を優先する思想が明確に現われた設計です。
これは今の日本には真似できないでしょう。

まあ、交通量はかなり少ない道でしたが。



注記

この記事で使用した写真は全てGoogle Street Viewのものです。

写真のバージョンは、この記事を作成している時点で
Google Maps に表示されていたものです。

一部の写真は見やすくする為に明るさを補正しています。

撮影地点はファイル名に付した緯度・経度の数字で検索できます。