2013年4月29日月曜日

「走る犬のための習作」?

「走る犬のための習作」
「叫ぶ教皇の頭部のための習作」

フランシス・ベイクン(Francis Bacon)の作品の邦題ですが、
誤訳の臭いがプンプンします。誰も気にならないんでしょうか。

個人的には、絵自体がどうでもよくなるほど、
この邦題には心を掻き乱されますが。




「走る犬のため」って、
完成した絵を走っている犬に渡すのでしょうか。
渡す前に走り去ってしまうと思いますが。

「教皇の頭部のため」って、
完成した絵を教皇の頭部に捧げるのでしょうか。
それ、刎ねられて胴体から分離している事が前提になってませんか?



原題はそれぞれ
Study for a Running Dog
Study for the Head of a Screaming Pope
のようですね。
この"for"を「のための」と訳した、と。


お前は機械翻訳か。


英語の"for"と日本語の「ため」の意味のずれを
まるで考慮していません。

原題の"for"は「~を題材にした」という意味でしょうが、
日本語の「ため」が形成する副詞句・従属節の意味は、


  1. (行為や事態の)原因、理由。
    例:「繰り返し振動のため疲労破壊した」、「豪雨のため運休する」

  2. (行為や事態の)目的、用途。
    例:「本編はNG集を楽しむために有る」、「放牧のための土地」

  3. (物品の)授与相手。
    例:「彼女のための指輪」


で、どれも原題の意味と一致しません。
日本語としてまともに読めるように直すなら、

「習作: 走る犬」
「習作: 叫ぶ教皇の頭」

これで良いんじゃないかな。
(「:」の代わりに「――」でも良いですが。)



ちなみに、クラシック音楽業界でも
【平均律】クラヴィーア曲集
といった、無知に基づく誤訳が有りますが、
"for"に関しては、
2台のチェンバロのための協奏曲
フルートとヴァイオリンのためのソナタ
などと直訳しても日本語として意味は通っています。幸運にも。