2012年11月10日土曜日

シマノ vs カンパ vs スラム (変速性能比較)

以前、フロントディレイラーの構造を比較する記事を書きましたが、
実物を持っているわけではないので実際の動作の違いはお伝えできませんでした。

幸い、今年のサイクルモード2012の会場で用意された試乗車で
三社のグループセットが一通り揃っていたので、自分の手で動かして
構造面の違いが実際の挙動にどう影響するか確認できました。

インナーチェーンリングからアウターに上げる時の挙動を中心に、
比較インプレッションを書いてみます。

2015年10月6日追記

会場内の試走コース(平滑なコンクリート路面)を低速で負荷を掛けずに走っただけなので、現実の道路環境で感じる印象とは必ずしも一致しないという前提でお読みください。




Shimano


2300とTiagra 4600
変速はそこそこスムーズで、チェーンがアウターに上がってから
落ち着くまでに若干遅れる事を除けば上位機種と殆ど変わりません。

ケーブルを巻き取るシフトレバー(兼ブレーキレバー)の
ストローク量はかなり大きく、一気に動かすのは少し難しいですが、
操作に必要な力は非常に小さく、最上位機種のST-7900に匹敵します。

105 5700
変速は更にスムーズで、チェーンの持ち上がり具合などを
一切気にする事無く、スイッチをON/OFFする様に変速できます。
アウターに上がってからの落ち着きも速やかです。

巻き取りレバーのストローク量は下位機種より劇的に小さくなりましたが、
操作に必要な力はかなり大きく、あまりエルゴノミックでないレバー形状と
相俟って指が痛くなります。また解放レバーのストローク量は
不釣合いに大きく、設計方針に一貫性が感じられません。

ついでに、ブレーキレバーも前面が無駄に幅広、
且つ平面的で、レバーを戻すバネもかなり強いので、
フード・ポジションから人差し指、中指でブレーキを掛けると
指の形に沿わない為、痛くなります。これは改悪でしょう。

どうやらShimanoはエルゴノミクス面(と美的面)で迷走する事が多いようですね。
CampagnoloはCampagnoloで機械面の設計がぐだぐだですが。


ULTEGRA 6700, DURA-ACE 7900
もう何の不満も無い完璧な変速動作で、時にはアウターに
上がった事に気付かず、もう一度レバーを操作してしまう程の滑らかさです。

英語では変速ショックの少なさを指して It shifts like butter と言いますが、
UltegraとDura-Aceは shifts like milk と言っても良いかもしれません。

巻き取りレバーのストローク量は105同様に少ない上、
操作に必要な力も小さくなっています。完璧。

(ただ、レバーの抵抗はケーブルの這わせ方で随分変わるので、
試乗車ごとのセッティングの違いに起因するのかもしれません。)

とは言うものの、ブレーキレバー前面の形状の拙さは105と変わりません。
STIフード形状に至っては後発の105の方が、角が取れた事で
親指のMP関節に優しくなっています。ほんの僅かですが。

ちなみにブレーキレバーの断面形状は、確認できた範囲では
電動アルテグラ(ST-6770)でまともなエルゴノミック形状に戻っていました。
レバーの角が取れ、ブレーキを強く掛けた時も指が痛くなりません。
太さは相変らずで、正面から見ると不細工ですが。


Campagnolo


Veloce
変速動作はShimanoの最廉価機種と同等か、やや劣ります。
巻き取りレバーを一気に押し込めばそこそこ滑らかにチェーンは上がりますが、
アウターの歯と噛み合うまで若干の遅れが有ります。

レバーの押し込みを何回かに分けたり、押し込み速度がゆっくりだったりすると
カラカラ鳴るだけで変速できません。こうなると一旦ケーブルを解放して、
巻き取りをやり直さなければなりません。

フロント変速のケーブル巻き取りはブレーキレバー背後の
小さな樹脂製レバーで行なうのですが、このレバーは
小さい割にストローク量も、操作に必要な力も、かなり大きいです。
Shimano 105もレバーの動きが重いですが、
Veloceはレバーが小さい分余計に重たく感じます。

可動範囲の上限付近でレバーが撓むのも気になります。
Campagnoloのシフトレバーは、「根元から折れて脱落した」等の
故障報告がネット上に散見されるので、試乗の時も戦々恐々でした。

それから、何台か試した試乗車の内の一台は調整ミスか、
何回試みてもチェーンがアウターに全く上がりませんでした。
これはブース出展者の方に再調整をしてもらった後も直りませんでした。

試乗した台数が少ないので一概には言えませんが、CampagoloはShimanoより
調整狂いに対して弱く、すぐに機嫌を損ねてしまう様です。
(これが可愛いという人もいるかもしれませんが。)

フロント変速のトリムはインナー側にしか有りません。
アウターからインナーへはトリム無しで一気に落ちます。
正確には、親指パドルを押し下げ切った所で1クリック、
指を離してパドルが元の位置に戻る時にもう1クリックで、
パドルを押さえ続けていない限り、中間ノッチでの保持ができません。

ではアウターの時にトリムが不要かと言うと、
前アウター、後ろローの組み合わせでは
普通にチェーンとディレイラーの間で音鳴りするそうです(*)。

(* 試乗時はそこまで気が回らなかったので未確認。
とある自転車店の店員さんから聞いた知識です。)

2013年3月3日追記
ユーザー報告でも、2011年式のVeloceについて同様に、
... I never seem to have trim the front when on the big chainring
to get all the rear sprockets without scraping.
と書かれています。

Athena
これもVeloceと同様ですが、Athena(とCentaur)にはシフトレバーが
金属製のバージョンが用意されているので、
多少の重量増が我慢できるなら、強度面の不安を小さくできます。

試乗車ではありませんが、Campagnoloブースで展示されていた
グループセットの部品単体を触った限りでは、やはり金属製の
レバーの方がしっかりしていて安心感が有りました。

試乗車で金属レバー版のErgopowerが少なかったのは、
完成車を企画するメーカーの間にも、強度・剛性より分かりやすい
軽さを重視する風潮が有るからかもしれません。

カタログスペックで劣る金属レバー版を敢えて採用していたのは
懐古主義のモデルだけでした。

私個人は、耐久性を度外視して樹脂製部品やCFRP製部品を
多用するCampagnoloの姿勢は無節操だと思うのですが……。

Chorus
変速動作のぎこちなさは下位機種と同じですが、
Chorusはレバーのクリック感が非常に力強く、
「ガチリガチリ」と頼もしい感触が伝わってきます。
このお蔭でレバー自体の強度も高く感じられます。

ただ、ストローク量も操作に必要な力も下位機種より小さい訳ではありません。
レバーは一気に大きく動かさなければ滑らかな変速はできず、
さもなければカラカラ鳴って変速できません。

また、この「ガチリガチリ」はアウターからインナーに落とす時も
4クリック分有るので、トリムの自由度は高いにしても、
気軽なフロント変速を心理的に妨げそうです。
疲れてきたら「リア変速だけで良いや」ってなりそう。

それと、アウターからインナーへのトリムが可能(Ultra-Shift)なのは
現行モデルではChorus以上だけですが、
頑丈なアルミ製のシフトレバーが選べるのはAthenaとCentaurだけ。
私なら下位モデルにUltra-Shiftが復活するのを待ちます。

SuperRecord
これも変速のぎこちなさは下位機種と同様です。
Campagnoloのケーブル式変速はどれもShimanoの2300と同等か、
やや劣るレベルの様です。

レバー操作の「ガチリガチリ」感やストローク量、
操作に必要な力はChorusと同じです。

SuperRecordは固定ローラー台で試乗したのですが、
インナーからアウターに上げようとレバー操作をしたところ、
チェーンがボトムブラケット側(!)に落ちました。何故だ。

なお、樹脂製変速レバーの折損事故は
このSuperRecordについても報告が有ります。
(どの時期の製品かは不明。)

一般にヨーロッパの製品は丈夫で長持ちするという印象が
持たれているようですが、この樹脂製レバーは全く別で、
極端に言えば「1回のレースの間だけ持てば良い」
とか「1シーズン持てば良い」という意図が透けて見えます。
そういう意味でも、Campagnoloは生粋のレーシング・コンポですね。

Athena EPS
これは最高です。Shimanoの最上位機種と比べても全く遜色無い性能でした。
何のストレスも無くチェーンが持ち上がり、滞りなくアウターに落ち着きます。
電動式なので操作レバーはストローク量も操作に必要な力も極めて小さく、
全く欠点が有りません。

アップシフトとダウンシフトのボタン位置が離れているので
押し間違いが無いという点ではShimano以上でしょう。

シフト操作に力が要らないという事は、樹脂製レバーでも
折れる心配が殆ど無いという事でもあります。

電動変速は、強度を度外視して軽量化に突っ走ってきた所を
SRAMに足元掬われてしまったCampagnoloにとってこそ、
最も切実な技術と言えそうです。

Campagnoloに拘りが有り、且つ変速性能にも妥協しないなら、
電動変速一択です。それ以外の現行製品は考慮するに値しません。

でも電動変速って自転車のアイデンティティー失ってるよね。
そこのところの哲学は守りたいのがカンパ派なんじゃないかな。



SRAM


Apex
変速の滑らかさはShimanoの最廉価機種と同等に感じられました。
実際に足元では滑らかに変速しているのかもしれませんが、
変速レバーの巻き取り方向の操作が重すぎて、チェーンの移動まで
滑らかに行っていない様な気がしてしまいます。

レバーはパドル部分はかなり大型ですが、レバー長は短く、
ストローク量もかなり大きく、更に可動範囲の上限付近では
動きが渋くなって撓むので、操作の重さが異常に強調されます。
主観的には、三ブランドの全製品の中で最もレバー操作が重く感じます。

また、一つのレバーでケーブルの巻き取りと解放を兼用する
SRAM独自の構造が、フロント変速では大きなデメリットになります。
(リア変速は快適なのですが。)

前述の通り、レバー操作が重いので、
チェーンがちゃんとアウターに上がったか確信が持てず、
ついつい確認したくなりますが、ここに落とし穴が有りました。

確認の為に再びレバーを動かすと「インナー方向へのトリム」が作動、
もう一度動かすと「インナーに変速」という不可避な流れに入ってしまい、
再びアウターに上げる為に、またあの重い操作を強いられます。

(そうならない操作方法が有るのかもしれませんが、試乗時は分かりませんでした。)

私なら頼まれても使いません。

Force
変速性能や兼用レバーの問題点はApexと同じですが、
Forceはレバーの動きが若干軽く感じられました。
ただこれは試乗車のセッティングの違いに起因するのかもしれません。

その他


ダブルレバー (形式未確認)
Panasonicの若草色のツーリング車(OSS3)がダブルレバー仕様だったので、
デュアルコントロールレバーとの比較の為に試乗してみました。


部品の形式は確認し忘れてしまったのですが、
ディレイラーは会場で撮った写真を見る限りは105かTiagra、
クランクは記憶が正しければスギノだったと思います。

フロント変速は異様に滑らかで変速ショックが全く無く、
最初はシフトケーブルが切れているのかと勘違いした程です。
これにはDURA-ACE 7900以上に感動させられました。

レバーの動きも想像していたよりずっと軽く、
巻き取り時のキリキリという感触や、解放時のスッと動く感触は
最上級デュアルコントロールレバーさえ上回る高級感。

ついでに言えば、リア変速側のレバーもダダダダンッと
重厚な感触を伴いつつも軽快に多段変速できて、
機械を操作する悦びを溢れ出させるモノでした。

CampagnoloのUltra-Shiftが目指していたのは
この感触の再現だったのかと納得しましたが、
ダブルレバーの方が遥かに上質で堅牢な印象を受けます。

最近、入門モデルの自転車にもダブルレバーを復活させる動きが見られますが、
以前は「初心者には危ないのでは」と懐疑的に思っていました。
しかし一度この感触を知ってしまうと、製品企画者に讃辞を送りたくなります。
実に良いモノでした。


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