2012年9月30日日曜日

シマノ vs カンパニョーロ (FDの比較)

「シマノとカンパ、どちらが良いでしょうか」


Q&Aサイトの自転車カテゴリでは定番の質問ですが、
それに対する回答は全体的なブランドイメージを語るものが多く、
個々の製品の設計や性能を挙げて解説する様な回答は殆ど有りません。

Q&Aサイトで行われているこの種の知的活動は詰まる所
「印象の共有」でしかなく、具体的な知識は広がっていない様です。

では、ブランドイメージの霞を取っ払って製品そのものを
直視した場合、世間に流布する印象は裏付けられるのでしょうか。




調べてみましょう。


シマノとカンパの性能面での最大の違いは
フロント変速の滑らかさだと言われています。

フロントの変速性能にはチェーンリング裏面のランプ加工や変速ピンの配置も
影響しますが、以前、フロントの変速不調で苦労した経験から、
最も重要なのはディレイラーだろうと思っているので、
今回はフロントディレイラーに注目して両社の製品を比較してみます。 

比較する上で注目したのはフロントディレイラーの目立たない裏側、
パンタグラフを構成する内側のリンク部品です。


例によって実物は持っていないので、ネット上で得られた資料写真を
ベクター画像化しました。元写真はサイクリー(株式会社 AIカンパニー)の
サイトからダウンロードしたものです(*)。
* これらの写真は著作権法が定義する著作物には当たらない
(「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではない)ので、
特段、許可は取っていません。


■シマノ製品



まずシマノのフロントディレイラーを二世代前まで遡り、現在に至る変遷を辿ってみます。



Shimano FD-5500

二世代前の製品(FD-7700, FD-6500, FD-5500, FD-3300)に採用されていた構造。
リンクは上部の回転軸が片側支持構造で、下部はスプリングの前側に配置されています。
(この世代はスプリングに泥除けのカバーが付いているのでスプリングが隠れています。)

インナーからアウターに変速する際にチェーンを押し上げるのは
インナーケージプレートの下端(図右下の肉抜きがしてある辺り)ですが、
負荷が掛かるその場所からはリンク部品が結構離れています。



FD-6600

前世代の製品(FD-7800, FD-6600, FD-5600, FD-4500, FD-3400)に採用されていた構造。
リンク上部の回転軸が前後から挟まれる両側支持構造に変更されました。
またディレイラーの基部(フレームの取り付け台座と接する部分)が
前後方向に長くなり、リンクが後方に移動しました。

リンク下部はスプリングの後ろに位置し、インナーケージプレートの
チェーンを押し上げる位置に近付いています。



FD-6700

現行製品(FD-7900, FD-6700, FD-5700, FD-4600, FD-3500)に採用されている構造。
内側のリンクがH型になり、スプリングを両側から挟む形になりました。
リンク下部は前後にかなり幅広で、チェーンを押し上げる際の
インナーケージプレートの上下軸の捻れ(yaw)を抑える意図が感じられます。


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改良の流れを追うと、シマノは一貫してケージの捻じれ剛性を高める方向を
目指しているように見えます。構造が大型になった分の重量増は
何とか工夫して抑えているらしく、新しい世代の方が僅かに軽くなっています。

リンク部品の大型化にこれだけ拘るという事は、
インナーからアウターへの変速時にこの部品が果たす役割が
それだけ大きいという事なのでしょう。

(逆にアウターからインナーへの変速は、チェーンを横から
軽く押すだけで完了するので、大した負荷は掛からないはずです。)

実際に新旧のフロントディレイラーが手元に有る方は、
インナーからアウターへの変速負荷による捻じれ量の違いを
実験で確かめる事ができると思います。

シフトレバーを倒しながらインナーケージプレートの
チェーンを押し上げる辺りを指で押さえ込むと、旧製品の方が
ディレイラーの捻れが大きく、リンクの回転部分に負荷が掛かって
動きが渋くなるのが感じられるのではないでしょうか。(想像)



■カンパニョーロ製品



次にカンパニョーロ製品を見て行きますが、
あまり詳しく無いので世代を綺麗に並べる事ができません。
一応、三つの時期の製品を取り上げ、大まかな進化の方向を見る事にします。

コルサ・レコード(1980年代)

リンク上部の回転軸は片側支持構造で、この回転軸がスプリング受けを兼ねています。
リンク下部はそのままスプリングの軸になっています。この時代のクランクセットは
アウターとインナーのチェーンリングの歯数差が少なく、この程度の簡素な構造でも
そこそこの変速性能を確保できていたのかもしれません。

(それ以前の時代では、変速機の使用自体がスポーツマンシップに反する
という価値観が支配的だった様です。ただ、その価値観の内実は、
変速できない方がレースが過酷になってスポンサーの新聞が売れるからとか。)




Veloce (2011)

現行の最廉価グレードで、上位グレードの前世代製品と
ほぼ同じ構造を踏襲している様です。1980年代の製品よりは
リンクがやや太くなっていますが、リンク上部の回転軸は片側支持構造のままです。
下部も引き続きスプリングの前側に位置しています。



Athena 11s front derailleur

2012年現在の現行製品(Veloceと電動変速を除く全製品)に採用されている構造。
リンクは上部の回転軸が両側から支持される構造に変更されたましたが、
取り付け位置はあまり変わっていません。しかしリンクが途中で後ろに大きく湾曲し、
下部はスプリングの後ろ側に繋がっています。

素人目には如何にも弱そうに見えますが、この世代になってから
変速性能がシマノに追い付いたという評価を得ているようです。

2012年11月10日追記
実機に触って性能差を確かめてきましたが、とんでもない、
シマノの足元にも及ばないと言う方が正確でした。



なお、この部品の構造が影響したと思われる
故障・不具合事例は見当たりませんでした。

(その代わり、樹脂製の摩擦低減部品の脱落や
CFRP製のアウターケージの割れが報告されています。)


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カンパニョーロはほっそりした造形に拘りが有るようです。
現行製品でも部品の大型化を頑なに拒み続けています。
細さが持ち味のクロモリ自転車に合わせるなら
これしかないと思わせる輪郭線を持っています。


2012年11月10日追記
ただ、これだけ細い構造を持ちながらも機械式で最上位モデルの
Super Recordグレードの公称重量(72g)は
シマノの最上位モデル(FD-7900, 67g)より劣っています。




(なおカンパも電動版のフロントディレイラーでは
シマノのH型リンクと似た構造が採用されています。

2012年11月10日追記
電動版の変速性能はシマノの最上位機種に比べても
何ら遜色の無いものでした。)





■スラム製品



画像は用意していませんが、スラムのフロントディレイラーは、
2011年のRED Black Edition までは
シマノの二世代前やカンパニョーロの現行Veloceと同じ、
  • リンク上部の回転軸は片側支持
  • リンク下部はスプリングの前側
という構造(重量58g、但しケージの摩耗が激しくて不評)でしたが、
yaw(上下軸回転)機構を導入した2012年のREDからは一足飛びに
シマノの現行製品に似たH型リンクに変更されています。(重量74g)



SRAM RED Black Edition (2011)




SRAM RED 2012



■総括


以上見てきた進化の方向からは、フロントディレイラーの重要な課題が
ケージの捻じれ剛性を如何に高めるかという事だろうと読み取れます。

この観点から見た場合、機械式の製品で最高峰に位置するのは
やはりシマノの製品なのだろうなと想像できます。


2012年11月10日追記
実機に触って性能差を確かめてきました。


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